今回の話題は危機的状況を迎えているFCバルセロナについて。
前回の日記に、バルセロナはチャンピオンズリーグでは快進撃を続けているものの、リーガでは13位に低迷、ファン・ハール監督の解任も時間の問題!?というようなことをちらっと書きました。
週末にカンプ・ノウで行われたセビージャとの試合で、ホームにも関わらず0-3で完敗したという結果も書きました。
それで、この試合を迎える前でもすでにリーガでの順位は10位とバルセロナにすれば許されない順位でしたし、その他にもマドリー戦でのあの事件、そしてそれにともなうカンプ・ノウの2試合閉鎖決定、さらにそれに対する抗議のアピール不足などなど、ファンのガスパール会長に対する怒りも頂点に達していたんですが、それでもミッドウィークのチャンピオンズリーグのニューカッスル戦ではまたもや結果を出し、なんとか面目を保っていたような状態でした。
しかし、チャンピオンズリーグでいくら勝ち続けているとはいえ、ファンがリーガでのこの有様を許すはずもなく、ニューカッスル戦の後に行われたバルセロナの地元紙エル・ムンド・デポルティーボ紙の調査によると、ソシオの53.2%がガスパール会長の即時辞任を要求、ファン・ハール監督についても55.8パーセントが即刻解任を要求しています。
今のこの危機的状況の責任は誰にあるかという質問には、30.4%がガスパール会長だと答え、11.6%のファン・ハール監督を大きくリードしています。
ちなみに2位に理事会がつけているあたりが日本とはずいぶん違うなぁと思いました。
日本ではチームの成績が落ち込むと、取る手段は監督交代。しかしバルセロニスタは、もちろんファン・ハールも辞めさせたいのですが、それよりも会長とそして理事たちを第一の戦犯と考えているようです。
今『ソシオ』という言葉を使いましたが、バルセロナの場合、ファンたちがただのファンではないところが、よりチームへの怒りや要求となって現れています。10万を超えるこのソシオとは、一番簡単に言ってしまうと「公認会員」で、カルネと呼ばれる年間会員証を持っている人々のことです。スカパーの解説をされている羽中田さんも以前スペインに住んでおられて、今でもソシオの一員だということで、以前番組で会員証を見せてくれていました。
さらに数年前まではこの会員証だけでカンプ・ノウでサッカーが観戦できたみたいですが、今はさらに年間指定席も購入しないといけないようです。
そしてこのソシオ、ただ年間指定席のチケットを持っているだけではなく、株主制度のようなもので、お金を払っている代わりに、自分たちの中からクラブのフロントに役員を選出することによって、クラブの運営に間接的にではありますが参加しているのです。
このシステムによって、バルサの全収入のうち多くの部分がまかなわれていて、そのためバルセロナのユニホームにはスポンサーのロゴがありません。ナイキのマークはついていますが、例えばマンUだったらナイキのマークプラスvodafoneのロゴ(余談ですが、SHARPの時のが好きでした)がついていますが、バルセロナのユニホームにはそれがありません。文字通りファンたちがチームを支えているのです。
そして、お金を払っている分、クラブの決定に対して持つ影響力も他のチームとは自ずと異なってきます。チームがこのままでは駄目だと誰もが思うような事態にまでなれば、彼らは“選挙”によって会長を解任するのです。
そしてそんな状況の中、リーガでの再スタートを期すべく迎えたセビージャ戦でしたが、そこで0-3の敗戦。これはさすがに何かが起こるなということで、この試合を後半途中から見ました。
というのもすでに結果はわかっていましたし、2点目と3点目が試合終盤に入ることもわかっていて、バルセロナが0-3で負ける試合(自分は特にバルセロニスタでもありませんが)を90分も見ていられる時間的精神的余裕にも欠けたからでした。
しかも見たかったのは試合そのものではなく、この結果に対するソシオの反応。それを見るためにはこれで十分というのもありました。
そして、案の定、“こと”は起こりました。
後半途中からすでにブーイング、そして白いハンカチは振られていましたが、セビージャの2点目が入った途端、スタジアムに駆けつけた5万を超える観衆が皆一斉に白いハンカチを振り、その白い波はスタジアムを埋め尽くしたのです。
そしてセビージャの3点目には皮肉をこめて拍手を送るバルセロニスタ。そしてスタジアム全体が“ガスパール辞めろ”の大合唱。
そして試合終了のホイッスルが鳴るやいなや、パルコ(貴賓席)に対する集中攻撃が始まりました。白いハンカチを手に“辞めろ!辞めろ!”の大合唱を繰り返すバルセロニスタ。そのあまりの凄まじさに、ガスパール会長はすぐに席を立って逃げ出すのかと思いましたが、ドラマはここからでした。
なんとガスパール会長、その場から動こうとしません。周辺に詰め掛けているファンからの危険を察知したのか、周りにいた理事たちは彼にパルコを離れるように促します。しかし、ガスパール会長は、1人、また1人と理事たちを去らせ、自らはその場に残り続けます。
5万を超えるファンの罵声と怒号、そして批判を、たった1人で受け入れることを決意したガスパール。そのやや上の席では前会長がその様子をじっと眺めていました。
そして次々と理事、さらに著名人の招待客などが席を立つなか、皆に促されながらも最後まで動こうとしないガスパール。それはまるで、今この席を立ち去ってしまったら二度とここに戻ってくることはないという、そんな思いが滲み出ていました。
彼だってこんな状況からは一刻も早く立ち去りたかったはずです。しかし、今立ち去ってしまったらすべてが終わってしまうような気がしたのでしょう。そして簡単に席を立ってしまっては、自らの“敗北”を認めることになってしまうとも考えたのでしょうか。彼がついに引き上げようとしたのは、パルコの他の人々が皆消えた後でした。
ガスパール会長の目にもうっすらと光るものがあったように思いますが、この一幕には見ているこちらも目頭が熱くなるものがありました。
クラシコのことを書いた時、フィーゴに対するあの行為は許されるものではないものの、ここまでチームを愛せるバルセロナの人々が羨ましくて仕方ないと書きました。そして彼らの熱き“想い”は、今回もまた形となって現れたのです。
自分たちの愛する、そして誇りでもあるFCバルセロナ。そのチームのこの惨状に、黙っているわけにはいかなかった彼ら。彼らが出した結論は、5万を超える白いハンカチでした。
しかし、試合後理事たちを集めた話し合いがもたれたものの、会見ではガスパール会長は「私は辞めるつもりも、監督を更迭する気もない」と言い切っています。その理由は、会長というクラブの最高責任者として、今のこの危機的状況を乗り越える責任が自分にはあるからだというようなものでした。
しかし、放送中にアナウンサーが言っていた情報によると、ソシオたちはガスパール即時解任を求める署名のために、すでに2万枚を超える用紙を用意したとのこと。これがもっと膨れ上がり多数のソシオがその用紙に署名した時、いくら「私は辞めない」と言ってみたところでガスパールの命運は尽きます。さきほど書きましたように、“選挙”によって民主的に彼はその場を追われることになるからです。
リーガ・エスパニョーらは次節の試合で一端休みに入ります。ガスパール会長、このままだとシーズン終了後の解任は間違いなさそうですが、さて年が変わった時、彼はまだその地位にいられるでしょうか・・・。