No.32 文明の十字路

トルコやってくれました!ポルトガル、イタリア、スペインの仇はまずドイツがとってくれましたが、最後の最後にトルコがまたまたやってくれました。

中2日ということで選手の疲労が大きく、弱気のコメントも聞かれたトルコ、加えて今や完全にエースのハサンの欠場。さらに韓国の圧倒的大声援。さすがのトルコも苦しいかと思っていましたが、開始わずか数秒で大観衆を沈黙させてしまいました。

ここまで、彼が絶好調ならと思わせていたハカンシュキュルが、今までは何だったのというくらい体のキレが抜群。そしてイルハンとのコンビも完璧でした。ハサンはどちらかといったら個人で仕掛けていくタイプで、ハカンシュキュルとのコンビという意味ではいまひとつでしたが、イルハンはハカンシュキュルのことを完全に信頼しきっていて、彼が競ったボールのこぼれ球を、これでもかというくらい狙っていました。ハカンシュキュルもホン・ミョンボを完全に自らに引きつけ、イルハンにスペースを与える動きは見事の一言でした。

韓国の1点目のFKは完璧で、カーンさえいなければ大会NO.1GKは間違いなく彼というリュシュトゥもどうしようもありませんでした。

ハサンの代役以上の働きを見せてくれたイルハン、見事な活躍でした。

しかし、さすがヒディング監督で、ホン・ミョンボが空中戦で勝てないと見るやあっさりと交代させ、後半はトルコの攻めを完封。ここらへんがトルシエとの違いで、勝つためには何が必要かを理解し、そして決断に何の迷いもありません。決勝トーナメントに入った途端メンバーをいじってきたトルシエとは大違い、相変わらずの素晴らしい采配でした。

後半は、韓国が観客の大声援をバックにいつも通りの猛攻。リュシュトゥがベンチに代えてくれと直訴していたのに代えなかったのは見ていてかわいそうでしたが、結果的には代えなくて正解で、リュシュトゥが好セーブ連発でトルコを救ってくれました。でも、もう少し早く2点目が入っていたら、勢いで追いついてしまいそうでした。そして、試合はトルコの勝利。

今日の本題は、試合自体というよりもここからで、タイトルの「文明の十字路」という話もここからなんですが、試合終了後想像もしなかった光景がピッチ上で繰り広げられました。

なんとトルコの選手達がハカンシュキュルを筆頭に、韓国選手達と肩を組みながら共にサポーターに呼びかけ始めたではありませんか。今まではヨーロッパ勢とろくにユニホーム交換もしなかった韓国選手達もみんな応じていました。そして、トルコの選手達が次々に韓国の国旗を掲げ始めました。

イタリアなどのいわゆるヨーロッパの強豪勢の選手たちだったら絶対にこんなことはしなかったでしょう。ヨーロッパ選手権に出場したり、W杯予選もヨーロッパに振り分けられているなど、サッカーの地図的には完全にヨーロッパの一員であるトルコ。しかし、タイトルの「文明の十字路」と呼ばれているように、地理的にヨーロッパとアジアの掛け橋にあたる位置にあるため、歴史上いつも多様な文化に接してきたトルコ。

コンスタンティノーブル(現イスタンブール)が東ローマ帝国の都とされた時代を経て、モンゴルの宗主権下に置かれた歴史も持ち、オスマントルコ時代にはヨーロッパをも席巻。常に文明の衝突点として、何よりも多様性を求められてきたトルコ。そんな歴史を持つからか、その国民は「世界で一番優しい国民性」を持つとも言われるトルコ。

今大会、イタリア戦やスペイン戦などの審判問題が解決されているとはもちろん言えません。ですが、世界がサッカーという共通言語で語り合えるはずのその大きな舞台で、ヨーロッパと韓国(ひいてはアジア)の間に決定的な亀裂が生じてしまいそうだったところを、すべてとは言えませんが、ほんの少しでも、救ってくれたのはヨーロッパとアジアの掛け橋トルコでした。

少し前に塩野七生氏の『コンスタンティノープルの陥落』を読んで以来、トルコ(中でも特にイスタンブール)は行ってみたい場所NO.1でしたが、ああいう国民性を生む土壌とはどういうところなのか、ますます訪れてみたくなりました。

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