No.61 頂上対決!

今回は、チャンピオンズリーグ2次リーグ第1節にして早くもやってきた大一番ACミランVSレアル・マドリー。舞台はもちろんサンシーロ。過去にヨーロッパを9回も制しているマドリーと、こちらも5回制しているミラン。ともにヨーロッパをそして世界を代表するビッグクラブ同士の頂上対決です。ファイナルのカードでもまったくおかしくありません。過去の対戦成績も4勝4敗1分とまったくの互角です。

イタリアのかのガゼッタ・デロ・スポルト紙が付けた見出しは『スターたちの夜』。確かにベストメンバーが揃えばバロン・ドール(ヨーロッパ最優秀選手)受賞者が4人、そしてそれを受賞してもおかしくないメンバーもごろごろいて、文字通り世界選抜同士の対決。

しかし、この大一番に、マドリー側は、ベストメンバーからはまずDFラインではイエロが欠けました。しかし代わりに入るパボンもクラシコでは素晴らしい守備を見せ、一時期言われていたほどのひどさではなくなってきました。ただイエロと比べるにはまだ早いかなと思います。

そして中盤ではマケレレが怪我のため欠場。これはマドリーにとってかなり痛いです。前4人が自由に攻撃できるのも、マケレレとカンビアッソの献身的な守備と圧倒的な運動量があってこそ。その2人の中でもどちらかといえば守備的な方のマケレレは、ほんとに守備的MFの中では超一流で、チームのピンチにはことごとく顔を出し、今まで何度マドリーの決定的ピンチを救ってきたかわかりません。

そして、例の前4人では、欠場かと言われていたジダンは元気に出場。しかし、クラシコを欠場したロナウドは今回も欠場。代わりはモリエンテスでしたが、ロナウドは時に超人的なプレーをするとはいえ、モリエンテスとラウールのコンビネーションは惚れ惚れするほど抜群ですので、何の問題もありません。むしろ現段階ではこちらの方が機能するくらいです。

そんなわけでマドリーのスタメンはGKカシージャス以下、ミチェル・サルガド、パボン、エルゲラ、ロベルト・カルロスの4バックに、中盤の底にカンビアッソとセラデス、そしてモリエンテスを1トップにその下にはフィーゴ、ラウール、ジダンと並ぶ豪華な布陣。

一方のミランは守備の要ネスタが欠場。しかしこちらもミラノダービーで完璧な守備を見せたコスタクルタが長年の戦友マルディーニと中央を固め、何の問題もありません。そしてピルロを下げて来た代わりに、ミラノダービーは欠場したルイ・コスタが戻ってきました。

というわけでこちらもGKジーダ以下、シミッチ、コスタクルタ、マルディーニ、カラーゼの4バックに、中盤はガットゥーゾ、アンブロジーニ、セードルフがやや下がり目で、高い位置にルイ・コスタ。そして前線はリヴァウドにシェフチェンコ。

まさに『スターたちの夜』という見出しに相応しい両チームとも豪華な布陣。そしてレフリーも昨年のチャンピオンズリーグファイナルの笛を吹いたウルス・マイヤーさん。役者は揃いました。

ホームのミランは立ち上がり早々、ルイ・コスタの見事なダイレクトパスからセードルフが強烈なシュートを放ちましたが、これはカシージャスに阻まれました。

その後もミランはボールを支配。そして試合も15分を過ぎたあたり、右サイドガットゥーゾから上がったクロスボールを、シェフチェンコがパーフェクトなトラップ。足元に落ちてきてから止めるのではなく、高い位置で足に吸い付くように止めるという、まるでベルカンプのトラップを彷彿とさせるパーフェクトなトラップ。しかしシュートは惜しくも左に外れてしまいました。これは入ってもおかしくないシーンでした。

マドリーが反撃に出たのは25分過ぎ、カウンターアタックから一気に攻め上がると、中央をドリブルで駆け上がったジダンがDFをひきつけるだけひきつけておいて、モリエンテスにパス。モリエンテスは完璧にフリーでしたが、シュートはジーダの正面をついてしまったため、ジーダはなんとかこれを弾きました。

そして30分過ぎくらいに、これぞマドリーというアンビリーバブルなプレーが出ました。ロベルト・カルロス→ジダン→ラウール→ジダン→モリエンテス→ロベルト・カルロスと5本の見事なダイレクトパスを次々とつなぎ、最後はそのロベルト・カルロスからのシュート気味のクロスボールにモリエンテスが飛び込みましたが、惜しくも得点には至りませんでした。しかし、ダイレクトパスはほんとに見事で、“魅せる”マドリー、さすがです。

そしてこんなスーパーなプレーが飛び出したことからもわかるように、マドリーも徐々にペースをつかみ始め、ミランは立ち上がりの攻勢が影をひそめ始めました。

しかし、たった一つのプレーでゲームを決めてしまえる男ルイ・コスタが一本のパスを通したのはそんな時でした。前半40分、自陣でボールを奪ったミランはルイ・コスタにパス、この時ルイ・コスタの位置は自陣の中央あたり、センターサークルやや手前くらいでした。

しかしボールを持って前を向いた彼の目には、ピッチの上に一筋の道が見えたことでしょう。この日記の『針の穴を通す男ルイ・コスタ』の時にこんなことを書きました、“目がキラ☆っと輝くかどうかはわかりませんが、彼の目にたった一筋の道が見えた時、ボールはまさにその上を寸分の狂いもなくコロコロと転がります”と。

まさにその通り、ボールは数十メートルの距離を寸分の狂いもなく転がり、敵陣ペナルティエリアやや手前に走りこんだシェフチェンコのもとへ。この前、『This is スルーパス』というタイトルでルイ・コスタのスルーパスについて書きました。あのパスもパーフェクトでしたが、あれは敵陣ペナルティエリア手前からペナルティエリア内へのショートレンジでのスルーパス。そして今回は自陣から一気に敵陣ペナルティエリア付近というロングレンジのスルーパス。この2本を見ればスルーパスはもう十分でしょう。それくらい2本とも完璧。

この前のインザーギも、今回のシェフチェンコも、彼らのレベルならあのパスを決めるのはそう難しいことでなく、パスが出た時点で勝負あり。

そしてシェフチェンコ、復活してからというもののゴールは決めるもののなかなか勝利に結びつかず、ミランのいい流れを止めている感さえありましたが、これで完全復活でしょう。

そしてシェフチェンコはまさにルイ・コスタが求めていたストライカーなのです。これについても以前書きましたが、ここでもう一度書きますと、“彼の能力を最大限に生かせるFWとは、相手DF陣に空いたスペースを一瞬にして見つけ、そしてそこに最短の距離で、しかも最高のタイミングで、最速に走り込むFW”。そして“シェフチェンコは今書いた要素を、世界最高レベルですべて兼ね備えています”とも書きました。

そんなシェフチェンコと、そしてスルーパスの達人ルイ・コスタ、たった1本のパスが試合の流れを一瞬にしてまたミランに引き戻しました。サンシーロは当然熱狂の渦に包まれました。そして前半は1-0で終了。

後半立ち上がりにも絶好調ルイ・コスタのシュートがカシージャスを襲い、セードルフ、シェフチェンコもカシージャスを脅かしました。さらにはカラーぜまでもがゴール前に攻め上がりフリーでシュートを放ちましたが、これは惜しくもカシージャスに阻まれてしまいました。

マドリーはイマイチ調子の悪いモリエンテスに代えポルティージョ、そしてカンビアッソに代えソラーリを入れ反撃に出ます。

そして試合時間が10分を切ってから、ジダンがヘディングでジーダに競り勝ち、こぼれたボールにラウールが体ごと飛込み、ボールはゴールラインを割りました。しかしこれはオフサイド。ラウールは飛び出したキーパーよりもゴールに近い位置にいて、そのラウールとゴールの間にいたミランの選手は1人。執念の同点ゴールかとも思われましたが、文句なしのオフサイドでした。

そしてそのまま試合は1-0でミランの勝利。マドリーは3枚目のカードを切ることもなく、何が何でも同点に追いつくという気迫は感じられませんでした。

この試合、試合を決めたのはルイ・コスタの1本のパスでしたが、影のMVPは文句なしでカラーゼ。フィーゴがボールを持ってドリブルで勝負をしかけても、ことごとく勝利。フィーゴがほんとにバロン・ドール受賞選手!?、ただの選手では!?と見えてしまうほどカラーゼの圧勝。

フィーゴも体調がベストではないのかもしれませんが、以前のようにドリブルで1対1を仕掛ければまず抜けるというものではなくなってきているのかもしれません。しかしスペインではフィーゴはやっぱり1対1で多くの場合勝てます。この日記でも書きましたベティスとの試合での、ルイス・フェルナンデスはフィーゴの敵ではありませんでした。

しかしスペインでただ1人フィーゴのことを完封してしまう選手がいます。そうバレンシアの左サイドバックである、“天敵”カルボーニです。カルボーニがなぜフィーゴに勝てるかというと、カルボーニはほんとに“動かない”のです。

ドリブルの種類という話は、『風になった男ライアン・ギグス』の時に、フィーゴが抜く方向は横、ギグスは縦という話を書きました。

カルボーニはおそらくギグスの敵ではないでしょう。ギグスの圧倒的なスピードに、もうずいぶんな年齢のカルボーニはおそらくついていくことができないからです。

しかし、フィーゴはボールを持った状態で左右にフェイントをかけ、相手がどちらかに動いてくれたらその逆を瞬時に抜くという抜き方です。そして多くのディフェンダーは我慢しきれなくて動いてしまってやられるんですが、カルボーニは“我慢”を知っています。そして動かなければ、圧倒的なスピードがあるわけではないフィーゴのドリブルはたいしたことがないものとなってしまいます。

しかしこれは口で言うほど簡単なものではなくて、現に多くのディフェンダーが彼のフェイントにやられているからこそ彼はバロン・ドールを受賞するような選手なんですが、そのフィーゴが敵わないのがカルボーニです。そして今回のカラーゼも“我慢”を知っていました。おかげでフィーゴは“ただの”選手に。

フィーゴが完全に止められると、マドリーの突破口はジダンしかなくなります。ラウールもモリエンテスもたった一人の力だけですべてを決めてしまえるタイプの選手ではなく、モリエンテスはクロスボールに対しての打点の高いヘディング、そしてラウールは、裏への飛び出しと、クロスボールに対してのニアサイドへの飛び込み、これが最大の武器であり、そのためには共にパスが必要であり、なかでも一番精度の高いクロスを上げてくれるのがフィーゴなのです。

そのフィーゴを完封できる選手を持っているチームはマドリー相手に一つの大きな武器を持っていることになります。その意味で今回のカラーゼは完璧でした。もちろん中央のコスタクルタ、マルディーニの体を張った守備も素晴らしく、ともにあのバレージとミラン黄金期のDFラインを支えた選手ですが、いまだベテラン健在です。ネスタの穴をまったく感じさせません。

これでミランはグループ最大のライバルマドリーから勝ち点3を奪う最高のスタート。一方のマドリーは、次節のサンチャゴ・ベルナベウでのロコモティフ・モスクワ戦は必勝を期す試合となりました。

さて、その他の試合では、まずはミランとマドリーが入っているグループCのもう1試合ロコモティフ・モスクワVSドルトムントは氷点下のモスクワでの試合。この完全なアウェーゲームにも関わらずドルトムントは1-2で勝利。この勝ち点3はドルトムントにとっては大きいです。このグループはミラン・マドリー、ドルトムントの三つ巴になりそうです。

そして同じく一日目に行われたのがグループD。こちらではまず我がマンチェスターUは立ち上がり30秒ほどで先制されながらも、後半ファン・二ステルローイが立て続けに2点を入れ、とどめはスールシャール。結果アウェーにも関わらずFCバーゼルを1-3で撃破、順調な滑り出しです。

そしてもう1試合リアソールでのデポルティボVSユベントスは、立ち上がり早々デポルティボがディエゴ・トリスタンとマカーイのゴールで2点を先制したものの、前半にビリンデッリ、そして後半にはネドベドが決め2-2の引き分け。ユーべほんとに負けません。今シーズンのユーベはほんとに強いです。一方デポルティボは2点を先制しながら勝ち点3を取れなかったのは後に響いてきそうです。

そして2日目に入り、まずはグループA。こちらでは応援しているインテルがアウェーにも関わらずニューカッスルを1-4で粉砕。最高のスタートを切りました。

そしてグループ最大のライバルバルセロナも、アウェーでレヴァークーゼンに先制されながらも、後半早々サビオラ、そして終了間際にお気に入りオーフェルマルスが決め1-2と逆転勝ち。大好きなオーフェルマルスの復活は嬉しい限りです。

そして最大の激戦区グループBでは、まずオリンピコに乗り込んだアーセナルがアンリのハットトリックで1-3とローマを一蹴。今シーズンいまいち乗り切れないローマ、この前はサンチャゴ・ベルナベウでマドリーに勝つという大仕事をやってのけましたが、アーセナルの敵ではありませんでした。

もう1試合はバレンシアがホームメスタージャにアヤックスを迎えた試合。試合終了直前にイブラヒモヴィッチに決められメスタージャ陥落かと思われましたが、なんとアングーロがロスタイムに同点弾を叩き込み、劇的なドロー。しかしメスタージャでは圧倒的な強さを誇るバレンシア、ここで勝ち点3を取れなかったのは後々響いてくるかもしれません。

今回もこの前に続いて、何を置いてもルイ・コスタのスルーパス。

それにしても、よく考えてみればルイ・コスタとジダンの対決なんてそう見れるものではないと思うので、貴重なものを見れたのかもしれません。

トップ下といってもいろんなタイプがいて、バレンシアのアイマールや、モナコのガジャルド、そしてデポルティボのバレロンなどは“パサー”という言葉がぴったりきそうですし、バイエルンのショルやダイスラー、インテルのレコバなどは“チャンスメイク”という感じです。

そんな中、最近はなかなかいなくなった昔ながらの“10番”、ジダンの背番号は5ですが、文字通りトップ下に君臨する“プレイメイカー”、たった一つのプレーでゲームを決めてしまえる“フィールドの支配者”、そんなタイプとしてはジダンとルイ・コスタは世界の中でも双璧でしょう。

そんな2人の対決、ジダンがスペインに行ってしまった今、見れる機会はそうはありません。そして今回の対決ではたった1本のパスでゲームを決めてしまったルイ・コスタの完勝でした。第5節のサンチャゴ・ベルナベウでの対戦では、ジダンはこの借りを返すことができるでしょうか。

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