『ザ・ミッション/非情の掟』(ジョニー・トー)

ザ・ミッション 非情の掟

今回は、“男ならこれを観ろ!”(まだまだ募集中です!)へ投稿していただいた中から、東雲様ご推薦、『ザ・ミッション/非情の掟』です。
六条様にも『インファナル・アフェア』へのコメントの中でお薦めしていただきました。
御二方、本当にありがとうございます!

さて、お勧めしていただく前からも、いろんなところで“傑作”の噂を耳にしていたこの作品ですが、期待以上の素晴らしさ。

耳から離れないかっこよすぎるテーマ曲で幕を開けると、後は時間が経つのも忘れるほどのあっという間の81分。
無駄に長過ぎる映画が氾濫する中、まずはこの短さが何よりもいい。

黒澤明に心酔しているというだけあって、クレジットの書体が黒澤作品そのままなのは笑えます。

何者かに襲われた黒社会のボスを守るため、集められた5人の男。
ボスの命を狙う敵と、それを阻み正体を暴こうとする男たち、話としてはそれだけです。

ですが、全編に漂う緊迫感は『インファナル・アフェア』以上、銃撃戦のかっこよさは『男たちの挽歌』以上。

『昼下がりの決斗』の時に、「荒れ狂う銃撃戦も、噴き上げる血飛沫も、ペキンパー監督十八番の必殺のスローモーションもなくても、こんなにも“男”を感じさせてくれるなんて」と書きましたが、それにさらにスピード感とスタイリッシュさを加えた感じ。

所詮2番煎じでしかないジョン・ウーがサム・ペキンパーを超えることはなく、ではその一歩先を行くにはどうすればいいか。

そこでより派手にしようとすればその他大勢と変わらないわけで、その逆をいったジョニー・トー。
たくさん弾は撃たれますが、ちっとも派手じゃないんです。
とりあえず派手に見せるために撃ちまくりましたというのではなく、どの弾にも撃つ意味があります。

そして、派手にすればするほど、それは単なる“見世物”になってしまって、ほんとに“命のやりとり”をしているんだというヒリヒリ感がなくなってしまいますが、この映画のヒリヒリ感は息をするのも苦しいほど。

中でも白眉は閉店間際のジャスコでの銃撃戦。
エスカレーターを下るボスと、その前後を固める5人の男。
向こうに見えるエスカレーターに乗っている男が銃に手をかけたその瞬間、切って落とされる戦いの火蓋。

エスカレーターを下りきると、とっさにフォーメーションを組む5人。
四方八方に向かって銃を構える男たち、5人をまとめて捉えた奥行きのある構図、今まで観た全映画を思い出しても他にちょっとないくらい、ずば抜けてかっこいい!このショットだけでも文句なしの傑作。

ザ・ミッション 非情の掟 ジャスコでの銃撃戦

張り詰めた空気の中、聞こえ続けるエスカレーターの動く音、エスカレーターの下に仁王立ちしたマイクがエスカレーター上方に向かって撃つ銃の音、静寂の中に響き渡る最小限の音。
このシーンの緊迫感とかっこよさは尋常じゃありません。

それでも一番好きなシーンは、ボスの家の庭にあるプールサイドで、5人が束の間の休息をとるシーン。

ザ・ミッション 非情の掟 仕掛け煙草

グァイの暴発したタバコを見て笑う他の4人。
笑顔のない世界に生きる男たちが、ふと見せた屈託のない笑顔。
このシーンがあったからこそ、ラストへ向けてのあの怒濤の展開が、より胸に迫るのです。

誰からともなく始まる紙屑でのサッカーもよかった。

ザ・ミッション 非情の掟 紙屑サッカー

わずか81分の間に5人の人物像を描き切っているのも見事。ただの一つの無駄もなく、“目”でわからせるジョニー・トー。ダンス・ダンス・レボリューションだってもちろん欠かせません(笑)
ロイ兄貴がさりげなくシンのシャツを手に取るシーンなど、脚本にもぬかりはありません。

役者では、『インファナル・アフェア』シリーズでも重要な役を演じた二人が魅せてくれます。

アンソニー・ウォンも渋すぎですが、なんといってもフランシス・ン。
『インファナル・アフェア 無間序曲』でも存在感抜群でしたが、この映画で見せる眼光の鋭さははんぱじゃありません。
ボスの周りを固めて移動する時に、いつも先頭に立つのにも痺れます。

そして、この映画を観て頭に浮かんだのは、北野武監督の傑作『ソナチネ』でした。

あの砂浜での人間紙相撲。その笑顔の世界と、一転して訪れる非情な世界との見事な対比。
静寂の中に響き渡る銃の音。エレベーターの中の銃撃戦はほんとに痺れましたが、あの感覚に似ています。

『インファナル・アフェア』3部作を“希代の傑作”と、“男の美学は『男たちの挽歌』『ワイルドバンチ』を観ておけば大丈夫”と、そんなことを書いている(書いたのはもちろん自分です…)場合ではありません。

唯一の欠点は日本公開用に付けたというオープニングとエンディングの字幕。“言葉”ではなく“目”で魅せる映画だからこそ、あれは必要なかったですね。
タイトルも、原題通り『鎗火』の方が断然よかった…。

ただ、それも小さなこと。
香港映画、そしてジョニー・トー恐るべし…。
とんでもない傑作。

 

ザ・ミッション 非情の掟 [DVD]

[原題]鎗火
1999/香港/81分
[監督]ジョニー・トー
[執行導演]ロー・ウィンチョン
[脚本]ヤウ・ナイホイ/ミルキーウェイ・クリエイティブチーム
[出演]アンソニー・ウォン/フランシス・ン/ジャッキー・ロイ/ロイ・チョン/ラム・シュー/サイモン・ヤム/エディー・コー/ウォン・ティンラム/佐膝佳次/ロー・ウィンチョン
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