今回は、自分にとって泣ける映画のトップに君臨する作品です。
前に、『リトル・ダンサー』について書いた時に、“イギリス映画必殺の炭鉱もの、そして選に漏れず泣けます…”ということを書いたんですが、今回はイギリス映画ではなくアメリカ映画ですが、またもや炭鉱もの。
それにしても、なぜこんなに炭鉱ものは泣けるんでしょう。
それはやっぱり、昔気質の男たちと、そんな男たちを支える女性たち。そして、ケン・ローチ作品の時に何度か使いましたが、“底辺にいる人々の日常”。
父も、周りの男たちもみんな炭鉱夫。そして自分も当然のごとく炭鉱夫。
運良くスポーツで奨学金をもらえて大学に行けた一握りの人間以外は、それ以外に選択肢がない生活。
それを嫌だと思うまでもなく、当然のこととして受け止めている人々。
そんな日常から抜け出すための、きっかけ、希望、夢。
『ブラス!』ではブラスバンド、『リトル・ダンサー』ではバレエでした。
今回はロケット。
冒頭、ソ連が人口衛星の打ち上げに初めて成功したというニュースがラジオから流れます。
その世界的なビッグニュースは、この片田舎の炭鉱の町にも、ラジオからですが流れたのです。
その姿が肉眼でも見えるということで、人々が今か今かと空を見上げます。
スプートニクのその姿に、まるで天の声を聞いたかのように、運命的なものを感じた一人の少年。
自分もロケットを作るんだ!ここから彼と3人の仲間、“ロケット・ボーイズ”の奮闘が始まります。
ロケットといってもいわゆるあの大きなロケットではなく手のひらサイズですが、それでも数キロは飛びます。
一人オタクっぽい少年がいて博学ですが、基本的にはみんな科学的知識など皆無です。
最初のロケットは当然のごとく失敗。次も失敗、その次も失敗、その次も…。
あらぬ方向に飛んでいったロケットが火事騒ぎを起こし逮捕までされるなど、一難去ってまた一難という展開ですが、そんな彼等にも理解者はいました。この映画には欠かせないライリー先生です。
校長に怒られたりする4人を毎回かばい、夢をもって挑戦し続けることがいかに大切なことか、いつもいつも背中を押してくれるのです。
しかし、主人公の前に立ちはだかった最大の壁は、自らの父親でした。
町の男たちは皆が皆炭鉱夫なんですが、誰からも信頼の厚い、炭鉱夫の中の炭鉱夫。
昔気質という言葉はこの親父のためにあるのではと思わせるほど、頑固さ加減は半端ではありません。
この頑固な父親の存在も、炭鉱ものには欠かせません、『リトル・ダンサー』もまさにそうでした。
主人公の兄は、アメフトの特待生で奨学金をもらうような自慢の息子。
彼の試合にはいつも必ず観に来る父親も、主人公がロケットを飛ばすのを観に来てくれと言っても、仕事があるからと、一度たりとも観に来てくれません。
夢なんか見るなと、お前も炭鉱夫になり、そしてそれが当たり前なんだと、息子のロケットへの夢の前に立ちはだかります。
しかし、相変わらず父親は大反対ながらも、多くの人たちの助けもあって、ついにロケットの打ち上げは成功、“ロケット・ボーイズ”はなんと全米科学コンテストで優勝までしてしまいます。
4人とも奨学金をもらえて大学に行けることになり、晴れてこの“何もない町”から抜け出すことができたのです。
ここまででも十分に泣いていますが、ここからいよいよ号泣モードに突入。
最後にもう一度町のみんなの前でロケットを飛ばすから観に来てくれと、父親に言う主人公。
しかし、この期に至って、仕事が忙しいからと相手にしない父親。
さらに、主人公が憧れのヒーローであるブラウン博士に会えたのに気づかなかったことを皮肉ります。
それに対して主人公が言い放ったのが、この映画一番の名台詞。
「僕達、見解が一致しない事柄がある。
いや、ことごとく全ての事で一致しない。
でも、僕もひとかどの人物になれるはずだ。
オヤジと異なるからじゃない、同じだからだ。
同じくらい、分からず屋で強情だ。
同じくらい、良い人間になりたい。
確かにブラウン博士は偉大だが、ヒーローじゃない」
一度もロケットを飛ばすところを観に来てくれず、そんなことやめろと言われ、事あるごとに立ちはだかってきた父親。
しかしそんな父親も、町の誰からも信頼される炭鉱夫の中の炭鉱夫。
そして、父親にも実は、炭鉱にすべてを賭ける理由はあるのです。
そんな父親のことを、主人公は、自分の夢を理解されないつらさと同時に、誰よりも尊敬していたのです。
自分が夢をあきらめずに実現できたのは、親父譲りの頑固さのおかげだと、自分にとっての真のヒーローは他ならぬ親父なんだと。
ここはほんとにボロ泣き…。台詞良すぎ!
その言葉に、父親は何か返事をするわけでもありません、ただ黙って聞いているだけです。
それでも、こんなに立派になった息子のことが、誇らしくて誇らしくてたまらなかったことでしょう。
そしてまた、いつものように地下へと降りていきます。
息子が周りの炭鉱夫にコンテストの優勝メダルを嬉しそうに見せるのを、遠めに見ながら地下へと降りていく父親。
このシーンはほんとに極上…。
ここへきて、炭鉱ものということが、今までの2本より生きてくるわけです。
町の全てであり、父親の誇りでもあり全てでもある炭鉱、それは地面の下の世界です。
それに対し、息子が夢見、目指したのは空でした、この対比が素晴らしい。
そして、いよいよ打ち上げの時。
ロケットの名前は“ミス・ライリー”、このネーミングも号泣を誘う一因です。
ここから先は見てのお楽しみということで。
この映画が凄いのは、何といっても実話だということ。“ロケット・ボーイズ”もミス・ライリーも実在なわけで、実際の映像も流れます。
主人公の少年がこの映画の原作者でもあるわけですが、元NASAの科学エンジニア。この映画にもおおいに協力したようです。
さらに、話自体は事実が凄いんですが、映画としての一番の勝因は、頑固な父親役のクリス・クーパーでしょう。
『シービスケット』の調教師役も渋くて最高でしたが、彼なしにこの映画はありえません、100%どころか300%ハマっています。
主人公が自ら、成功する確率は“100万分の1”と言いますが、その100万分の1に賭け、その夢を現実にしてしまった少年たちと、彼らを支えた多くの人々の物語。
夢を持ち、夢を信じ、その夢のために努力し続けるということ。
すべての人に観てもらいたい、忘れかけていた大事な何かを思い出させてくれる、珠玉の名作。
[原題]October Sky
1999/アメリカ/108分
[監督]ジョー・ジョンストン
[出演]ジェイク・ギレンホール/クリス・クーパー/クリス・オーウェン/ローラ・ダーン
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