今回は、セルジオ・レオーネの最高傑作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』です。
西部の駅に現れたならず者3人組が、ある男の到着を待ちます。
列車が2時間も遅れているため、時間をもてあます3人。
ジャック・イーラムは顔にとまったハエと格闘し、ウディ・ストロードは天井から漏れてくる水滴に打たれ、アル・ムロックは指を鳴らし続ける。
この間エンニオ・モリコーネはひたすら沈黙を守り、ハエの飛び回る音、落ちる水滴の男、鳴らされる指の音、さらには風の音や軋む風車の音など、自然の音だけで繋ぎます。
この後すぐに殺されるチョイ役3人(にしては役者は豪華。特典映像のアレックス・コックスのインタビューによると、“まことしやかな噂”として、このチョイ役3人に、セルジオ・レオーネはイーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォーラックにオファーを出したが断られたとのこと。もし真実で、しかも実現していたとしたら凄すぎる!)、そんな3人がただ列車を待っているだけのシーンを、台詞もなしで延々11分も続けます。
オープニングからセルジオ・レオーネ節全開!
他の監督なら30秒もかけないところを、まったく飽きさせずに11分も見せる、これがセルジオ・レオーネの素晴らしさ。
嵐の前の静けさ、徐々に高まる緊張、冒頭から傑作であることを確信させます。
ようやく現れた列車、その中の1両の扉が開けられ、一瞬にして高まる緊張。
銃に手をかける3人。
しかしそれは、乗務員が荷物を降ろすために開けただけ。待っていた男の姿はありません。
なんだ来ないのかと3人が駅を後にしようとすると、突如響きわたるハーモニカの音色。
振り返る3人。
列車が発車し視界が開けると、ハーモニカを吹きながら立ち尽くす一人の男。
待ってましたチャールズ・ブロンソン!
男たちが乗ってきた馬に目を留めたブロンソン。馬はもちろん3頭。
「俺の馬がいないようだな?」
「おかしいな、どうやら1頭足りねえようだ」
「いや、2頭余る」
なんなんですかこのかっこいいやりとりは!
オープニングからこんなにかっこよすぎて後は大丈夫なの?(もちろん大丈夫なんですが)と思ってしまうほど、いきなり“男ならこれを観ろ!”全開のやりとり。
勝負は一瞬。
ここはまだ相手が雑魚キャラなので、レオーネ必殺のじらしは使われてません。
場面は代わって砂漠にある1件の家。
農場主の男とその子供たちが、庭でパーティーの準備をしています。
男の再婚相手の女性を迎えるため、チェックのテーブルクロスまで引っ張りだし、精一杯のもてなし。
しかし、長男が駅まで女性を迎えに行こうとした矢先、一発の銃声と共に現れた男たちが、幸せな家族を一気に葬り去ります。
男と息子二人娘一人の、一家4人皆殺し。
殺した男たちのリーダーは、なんとヘンリー・フォンダ。『荒野の決闘』でワイアット・アープを演じた、あのヘンリー・フォンダ。
ヘンリー・フォンダが残忍な悪役、これはキャスティングの勝利で、インパクトも存在感も抜群。
その頃駅には一人の女性が。
来るはずの迎えが来ないことに寂しさを覚える女、扮するのはクラウディア・カルディナーレ、超豪華メンバーです。
プラットホームもない西部の駅、列車から降りた人々も散り散りに消え、人気のなくなった駅。
線路沿いを歩くカルディナーレに寄り添うカメラ、夫の家の場所を聞くために駅舎に入るカルディナーレ、窓越しにカルディナーレと駅長を捉えるカメラ。
そのままカメラがクレーンで上に上がると、一気に広がる街並み。
線路沿いを歩くシーンからここまでワンカット。見事としか言いようがないワンカット。
人気のなくなった駅から、一気に賑わう街並みの俯瞰ショットへ。
何もないところに作った駅、プラットホームすらなく荷物も置きっぱなしにされた駅、そこに現れた、都会から来た着飾った女。
人気のない駅の光景は、この場所にとってカルディナーレがいかに場違いな存在かを浮かび上がらせます。
一転活気づく街の賑わい。
行き交う馬車、溢れる人々、西を目指してやってきた男たちが作った、今まさに建設中の街。
そのエネルギーがひしひしと伝わってきます。
駅舎の中からカメラが上がって俯瞰ショットになるところは、ほんとに唸ります。
街を後にし、砂漠にある、夫の家があるスイートウォーターと呼ばれる場所を目指すカルディナーレ。
この道中も、普通は編集で目的地へと一気に飛ばすんですが、道行く馬車をゆっくりと見せます。
通っているのは、ジョン・フォード西部劇の聖地モニュメント・バレー(このシーン以外はほとんどをヨーロッパで撮影したものの、モニュメント・バレーの赤土をわざわざ運んだという完璧主義はさすがレオーネ)。
迎えが来なかったので不安なカルディナーレは一刻でも早く着きたいところを、御者が途中の休憩所に立ち寄ります。
御者は酒を飲み、カルディナーレも店の主人と雑談していると、店の外から銃声が。
入ってきたのはジェイソン・ロバーズ。役者揃いすぎ!
ロバーズが酒を飲んでいると、例のハーモニカの調べが。
しかしハーモニカを吹く男の姿は暗くてシルエットしか見えません。
天井から吊されたランプをロバーズが勢いよく滑らせると、ランプの灯りに浮かび上がるハーモニカのを吹くブロンソン、かっこよすぎます…。
いかんいかん、全シーンが素晴らしいんですが、ただでさえ165分もあるのに、こんな調子で書いてたらとんでもない長さになりますね…。
というわけで、一気にクライマックスに飛びます。
カルディナーレの家の庭先で、木にもたれかかって座っているいるブロンソン。
まずはロバーズが現れます。無言ですれ違う二人。
しかし、お互いに言いたいことはわかっているといった表情。
ロバーズは家の中へ。
カルディナーレもブロンソンの存在に気づいており、ロバーズに尋ねます。
「あの人、何を待ってるの?あそこで何を?」
これに対するロバーズの答えが、クライマックスの幕を開けます。
「ひたすら木を削ってやがる。あいつが木を削るのをやめた時、何かが起きる」
辺りでは、いよいよもうすぐここまで伸びてくる鉄道のため、線路工事に精を出す労働者たち。
新たな時代が幕を開けるまさにその時に、時代に取り残された男同士の、最後の決着の時が刻一刻と近づきます…。
そこへ、テーマ曲とともに、フォンダ登場!
馬にまたがり、一歩一歩、ゆっくりとブロンソンに近づくフォンダ。
その姿に気づいたブロンソンは、削っていた木を投げ捨てます。
さあ、映画史上最もかっこいい決闘の始まりです!
舞台は、カルディナーレの亡き夫が夢を託したスイートウォーター、そこに建つ家の庭先。
家の中ではカルディナーレとロバーズが、対決を見ることなく、ただ勝者が家に入ってくるのを待ちます。
フォンダのテーマ曲と、ブロンソンのハーモニカによるテーマ曲が重なり合い、ついに訪れた両雄の対決に、エンニオ・モリコーネもここぞとばかりに盛り上げます。
太陽の位置を計算に入れ、先に立ち位置を決めたのはブロンソン。
そんなブロンソンを遠目に、フォンダがこちらも太陽を気にしながら、ゆっくりとゆっくりと円を描くように動きます。
フォンダも立ち位置を決め、静止する二人。
いざ!
でいきなり撃つのが並の映画。
セルジオ・レオーネはここからが違います。
クローズアップを多用した、必殺のじらし。
『続・夕陽のガンマン』の伝説の三角決闘同様、これでもかというくらいひっぱります。
まずは、このままの距離でやり合うのかと思いきや、ブロンソンから歩み寄り、さらに距離を縮めます。
両者の距離はほんの数メートル。
さあいよいよ撃つのか!?
セルジオ・レオーネ、そう簡単には撃ちません(笑)
両者のクローズアップのカットバックをはさみ、さらにブロンソンの脳裏によぎる過去をフラッシュバック。
そして、フラッシュバックの中でハーモニカが地面に落ちるのを合図に、今度こそいざ!
ブロンソンが最初に立ち位置を決めてから、実際に弾が放たれるまで6分弱。長い(笑)
しかし、その間1秒たりとも緊張の糸が途切れることはありません。
家の中に入ってくる○○(観てのお楽しみ)。
その姿を目にとめ、笑顔を見せるカルディナーレ。
そんな二人を複雑な気持ちで見つめるロバーズ。
いくらカルディナーレが男に留まってほしいと願っても、新しい時代が幕を開けた今、男の居場所はここにはありません。
「行かなきゃ」
『シェーン』でもまったく同じ台詞がありましたね。
二度と戻らないことがわかっていながら、カルディナーレも一応こう言わずにはいられません。
「いつかまた戻ってきて」
男は、女から視線を外すと、ドアのところから外を見つめつぶやきます。
「Someday.」
くぅ~!!
決して振り返らず、男が家を後にしたまさにその時、ついに、ついに鉄道がスイートウォーターへと到着します。
西部で何よりも大事な水を持っていたカルディナーレの夫。
そこに家を建て、駅を建て、そして街を作る。アイルランド移民である夫が抱いた壮大な夢。
実はこの物語の本当の主人公は、フォンダでもブロンソンでも、ロバーズでもなく、序盤であっさりと殺されたカルディナーレの夫だったのです(涙)
古き男たちは、ある者は命を落とし、生き残った男ももはやここに居場所はなく、西部の荒野に帰っていくしかありません。
一人スイートウォーターに残るのは、亡き夫の意志を継ぎ、新たなアメリカの礎となるカルディナーレ。
労働者たちに酒を振る舞うカルディナーレ。
映画は、新たな時代の幕開けを告げる、そんな光景を捉えた俯瞰の映像で幕を閉じます。
そこにかぶさる文字。
「ONCE UPON A TIME IN THE WEST」
涙なしでは観られないラストシーン。
何度観ても、流れる涙を抑えることができません。
『真昼の決闘』や『捜索者』など数々の西部劇を引用したり、聖地モニュメント・バレーでロケもするなど、本家西部劇への溢れんばかりの想いが伝わってくるこの映画。
マカロニウエスタン最高傑作という域を遙かに超え、西部劇史上最高傑作と言ってしまっても決して言い過ぎではないでしょう。
セルジオ・レオーネ&エンニオ・モリコーネの最強コンビに、ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレ、ジェイソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソンという夢の共演。
165分という長さながら、観る度に、観終わった後に続けてもう一度観たくなります。
それは、いつまでも、いつまでもこの世界に浸っていたいから。
西部に生き散っていった男たちへのエンニオ・モリコーネの美しすぎる鎮魂歌をバックに、全ての西部劇へのセルジオ・レオーネの想いに満ち溢れた、壮大なる一大叙事詩。
愛すべき大傑作。
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[原題]C’era una volta il West1968/イタリア・アメリカ/165分
[監督]セルジオ・レオーネ
[原案]セルジオ・レオーネ/ダリオ・アルジェント/ベルナルド・ベルトルッチ
[音楽]エンニオ・モリコーネ
[出演]ヘンリー・フォンダ/クラウディア・カルディナーレ/ジェイソン・ロバーズ/チャールズ・ブロンソン/ジャック・イーラム/ウディ・ストロード/アル・ムロック
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