No.67 “バスクの雄”の誇りに賭けて

全38節の折り返しにあたる前節まで、19戦無敗を続けていたリーガ・エスパニョーラのレアル・ソシエダ。20戦目にして、ついに土がつきました。

そして、彼らを止めたのは、マドリーでも、バルサでも、最近トップチームの仲間入りを果たしたバレンシアでもデポルティーボでもなく、バスクの永遠のライバルであるアスレティック・ビルバオでした。そう、無敗記録が止まったのは、他でもないバスクダービーだったのです。

“バスクの雄”、この言葉を聞いて真っ先に頭に浮かぶのはアスレティック・ビルバオです。レアル、バルサとともに、過去に一度も2部落ちしたことがなく、リーグ優勝は実に8回を数え、国王杯コパ・デル・レイに至ってはなんと24回も制覇しています。ライバルであるレアル・ソシエダがリーグ、コパ・デル・レイともに2回ずつしか優勝していないことからも、実績の差は歴然です。

そして、もうひとつビルバオをして“バスクの雄”たらしめている理由は、バスク人だけでチームを構成するという、徹底した“純血主義”を貫いているということ。外国人をまったく使わずスペイン人だけというのではありません、“スペイン人”すらチームには1人もいません。

以前、クラシコについて書いた時に、カタルーニャ人のマドリーに対する憎しみについて書きましたが、カタルーニャと同じように自治州であるバスク地方。そしてバルセロナは別にカタルーニャ人だけの純血主義をとっているわけではありませんが、このビルバオはいまだにバスク人だけでチームを構成しているのです。ということは海外のビッグネームなどを獲得するということもありません。

それでも先ほども書きましたように、2部落ちが一度もないのです。そしてギリギリ降格を免れているということもなく、例年順位は一ケタ。ここまでくればもう、“バスクの雄”と呼ぶことに躊躇はないでしょう。

一方のレアル・ソシエダ。97-98シーズンに3位という好成績を挙げたものの、それ以外は中位と下位を行ったり来たり。昨シーズンも最後はなんとか13位に食い込んだものの、一時期は降格間違いなしと言われていました。

そして、ビルバオがバスク人の純血を守っているのに対し、こちらは80年代に外国人獲得に踏み切りました。しかし、「バスク人以外のスペイン人はプレーさせない」というポリシーだけはずっと守ってきました。

しかししかし、今シーズン獲得したセルヒオ・ボリスはバスク人ではありません。戦後初めての“スペイン人選手”の獲得です。外国人だけでなく、ついに“スペイン人”選手をも受け入れ始めたのです。

そんなビルバオとソシエダでしたが、今シーズンはなんとレアル・ソシエダが破竹の快進撃。首位に立つということだけでもすごいのに、なんと年が明けてもいまだに無敗。そしてついに、無敗のまま折り返し地点を過ぎてしまいました。

しかも内容的にもフロックでもなんでもなく、マドリーに次ぐ2位の得点力を武器に堂々たる戦い。

中でも注目は前線のカルテット。ツートップは、昨シーズン後半からソシエダに帰ってきた、ヴィエリをさらに厳つくした男コバチェビッチ。そして、“剛”のコバチェビッチと絶妙のリズムを生み出している“柔”のニハト。圧倒的なスピードは、一瞬でDFを置き去りにする切れ味を持っています。

そして、右サイドにはセルタから古巣に帰ってきたカルピン。セルタやロシア代表の時には考えられなかった献身的な守備まで披露し、闘志溢れるプレーぶりも健在。一気にファンの心を掴んでいます。

そして、左サイドには地元育ちの英雄フランシスコ・デ・ペドロ。日韓ワールドカップでもスペイン代表として活躍した彼ですが、左足からの正確無比なキックはチームの大きな武器となっています。

そして、このカルテットを自在に操る中盤の司令塔にはスペインU-21代表シャビ・アロンソ。ソシエダの21年前のリーグ優勝メンバー、ペリコ・アロンソを父に持つ彼が、父が成し遂げた偉業に並ぼうと中盤で奮闘しています。

そしてゴールマウスでは、オランダ代表のヴェステルフェルトが神がかり的なセーブを連発。

そして迎えたバスクダービー、舞台はビルバオの本拠地サン・マメス。マドリーも鬼門とするまさにバスクの根城といった感じ。

そして、試合は3-0とビルバオがソシエダを粉砕しましたが、2得点1アシストの大活躍を見せたのが、ホセバ・エチェベリアというところがさらに物語に深みを与えています。彼が17歳の時、ソシエダから彼を引き抜いたのが他でもないビルバオだったのです。

彼に限らず、ソシエダの下部組織出身の優秀な選手たちは、ライバルビルバオによって引き抜かれてきたという歴史があります。ソシエダの下部組織出身ということは彼らもバスク人。先ほど書きましたようにバスク人だけでマドリーやバルサに立ち向かっていくビルバオにとって、優秀なバスク人なら、たとえライバルソシエダからといえど、容赦なく引き抜いていったのです。

このようなビルバオのやり方もあって、ソシエダは地元の下部組織を重視しながらも、外国人にも頼らざるを得なくなったという背景があるのです。

そして、そんなソシエダの無敗記録を止めたのが、ソシエダの下部組織出身でビルバオに引き抜かれたエチェベリア、これ以上のドラマがあるでしょうか。

チームとしても、首位をひた走るソシエダとは対照的に、今シーズンはこの試合を勝った後の順位でも14位と低迷。しかし、マンチェスター・ユナイテッドにとって、アーセナルに負けるよりもマンチェスター・シティに負けるほうが遥かに屈辱的なように、すべてに優先されるダービー。

しかも先ほどのような歴史的背景もあり、単なるライバル関係というにとどまらない、因縁のバスクダービー。ソシエダの快進撃を羨むしかなかったビルバオのサポーターたち。サン・マメスを埋め尽くした超満員のサポーターたちは、今シーズンのこれまでの鬱憤を一気に晴らしたことでしょう。

さて、ついに土がついたレアル・ソシエダですが、マドリーが引き分けたため、勝ち点差はいまだ4。むしろ無敗が続いているより、一回くらい途切れた方が少し息がつけるかもしれません。

ただ、肝心なのは次の試合で、これをすっきり勝てば何の問題もないでしょうが、連敗するようだと一気に崩れるかもしれません。21年ぶりのリーグ制覇へ向けて、レアル・ソシエダの夢は続きます。

サッカー日記の最新記事4件