ジョニー・トー第14弾。
結局劇場に行けなかったので、DVDを買ってようやく観れました。
惜しい!
もう少しで傑作になりえたのに…。
DVDのジャケットには、宣伝のためとはいえ“ジョニー・トー最高傑作”と書いてありますが、書いた人は、『ザ・ミッション/非情の掟』や『ヒーロー・ネバー・ダイ』を観たことがあるんでしょうか?
わずか4時間あまりの出来事を描いたこの作品。
香港特殊警察機動部隊PTU、特捜課CID、非番の組織犯罪課の刑事、黒社会のボス2人、強盗団4人組、徘徊する自転車の子供、ある者は必然的に、ある者は偶然に、全ては午前4時の無人の広東道へ…。
この作品、監督自身が「本当に撮りたかった作品」と言ったというだけのことはあり(インタビューを聞くと、例によって“習作”の一つにすぎないみたいなこと言ってますが)、しかも完成まで2年を要したという渾身の一作。
随所に唸るシーンは多々あります。
なんといっても、一番の主役といってもいいのが、夜の香港の街。
この雰囲気がまずは素晴らしい。
監督お気に入りのスポットライトを多用した、明と暗のコントラストは今回も冴え渡っていて、雑居ビルを懐中電灯の灯が駆け上がっていくシーンなんか、ジョニー・トー美学が炸裂していますね。
入念なリサーチのもと実際のPTUの人たちを真似たという、PTUの歩き方やポジショニングも素晴らしい。
車から降りて街に散っていくPTU、夜の街を歩き回るPTU、それだけでもう十分に素晴らしい。
逆に言うと、こういう部分で唸るような方でないと、ストーリーや登場人物への感情移入に重きを置く方は、この映画はつらいでしょうね。
午前4時に、PTUが角を曲って広東道に走って現われる呼吸は、死ぬほどかっこいい!
『ザ・ミッション/非情の掟』のジャスコでの必殺のフォーメーションにはかなわないものの、銃撃戦でのPTU5人のフォーメーションもなかなかかっこいい。
とここまではプラスの面ばかり書いてきたんですが、まず一番最初にひっかかったのが、冒頭のマーの暗殺シーン。
背中から体を貫くほど心臓を包丁で刺されているのに、あんなに元気に走れるんですか?(笑)
数分後にはちゃんと死ぬんですが…。
何よりも、数時間のうちに2回もバナナの皮で滑って転ぶ人が(しかも1回は失神)、どこの世界にいるんですか?(笑)
でも、バナナの皮に関しては、多くの方にはツッコミどころでしかないでしょうが、個人的にはクリティカルヒット!
なぜなら、ラム・シューだから!!
いやあ、今どきバナナの皮で滑るというギャグも凄いですが(『少林サッカー』でもバナナの皮で滑ってましたね)、しかもそれを数時間のうちに2回、こんなことをやって様になるのは、世界広しといえども、ラム・シューしかいませんね。
「脇の完成品」というタイトルで記事にまでしているラム・シュー、愛してやまないラム・シュー、彼のファンには、もうこの映画はバナナの皮で転ぶ彼だけで他には何もいらない(笑)
ただ、ただです。
それをこの映画でやる必要性がどこにあるのか?前半はどう見てもコメディですからねこの映画。
ジョニー・トー監督、痺れる男の映画が撮りたかったんじゃないんですか?
『ザ・ミッション/非情の掟』の名シーンである紙屑でのサッカーのシーン、あのような効果を狙ったのかもしれませんが、やりすぎです(笑)
黒社会のボス二人の名前も“ハゲ”に“ギョロメ”(笑)
“ギョロメ”の方は、『ザ・ミッション/非情の掟』のボスの人でしたね。
他にもジョニー・トー作品の常連が何人も出ていたのは嬉しかったです。
テンポも微妙に緩いような気がします。だれるというところまではいきませんが、『ザ・ミッション/非情の掟』や『ヒーロー・ネバー・ダイ』、あとは『ロンゲストナイト』、これらの映画にはあった張りつめた空気というものが、いまいち弱い。
あと、拳銃を無くした刑事というと、真っ先に黒澤明の傑作『野良犬』が思い浮かびますが、ジョニー・トー監督もインタビューの中で『野良犬』は大好きな映画だと話していましたね、真似したと思われるのはイヤだったとも話していましたが。
このインタビュー、ジョニー・トー監督にしては珍しくよく喋って、20分近くもあり、ファンには必見です。
今はとにかくたくさん作っていろいろ試す段階、3年後には自らのスタイルというものを確立させる予定とのこと、3年後が今から楽しみです。
あと、公開時のパンフレットが同封されていましたが、カテゴリーまで作っているジョニー・トーファンなのに、恥ずかしながら知りませんでした、「ジョニー・トー=藤子不二雄説」。
「明るく楽しい『ドラえもん』を描く藤子Fと、暗くてカルトな『魔太郎がくる!』を描く藤子Aがいたように、ジョニー・トーも実は、ニコニコ陽気なジョニー・トーFと、ダークで強面のジョニー・トーAの二人がいる」、なるほど…。
ちなみに、ジョニー・トーF系列の作品としては『Needing You』『ダイエット・ラブ』、ジョニー・トーA系列の作品としては『ヒーロー・ネバー・ダイ』『ザ・ミッション/非情の掟』が挙げられていました。
でも、「作りたい映画」と、その資金を集めるための「稼ぐ映画」があるとは、普段から監督自身公言していますからね。
さらに、ジョニー・トー3rdというのもいるらしく、その系列の作品として『フルタイム・キラー』『マッスル・モンク』が挙げられていました。『フルタイム・キラー』が『マッスル・モンク』と同じ系列にされていたのには笑いました。この分類は完璧です(笑)
ずいぶんと話がいろいろな方向に飛びましたが、この映画、『ザ・ミッション/非情の掟』のような香港ネオ・ノワールを期待して観ると、いまいち物足りない映画だと思います。
ただ、ラム・シューファンには、このDVDは永久保存版でしょう。
[原題]PTU
2003/香港/88分
[監督]ジョニー・トー
[執行導演]ロー・ウィンチョン
[脚本]ヤウ・ナイホイ/アウ・キンイー
[出演]サイモン・ヤム/ラム・シュー/ルビー・ウォン/マギー・シュー/レイモンド・ウォン/エディ・コー/ロー・ホイパン/ウォン・ティンラム/ソイ・チェン
【関連記事】
●映画秘宝の“銃撃戦映画ベスト20”に『PTU』が堂々のランクイン!
●ジョニー・トー監督の誕生日に『PTU』鑑賞
●アメリカで『PTU』の特別版が出ていたとは!
●『PTU』、写真追加しました
●『タクティカル・ユニット 機動部隊 -絆-』(ロー・ウィンチョン)
●ウォルター・ヒル監督『ザ・ドライバー』の系譜にある映画たち