ジョニー・トー第25弾。
泣きました…。
ジョニー・トー作品、観るのはこれで32本目ですが、泣いたのは3本目。
1本は号泣必至のラブストーリー『過ぎゆく時の中で』、もう1本は男泣きの傑作『ヒーロー・ネバー・ダイ』、そしてこの作品。
いやあ、たまりませんねこれは。
香港や欧米の人の反応はわかりませんが、大和男児(こんな言葉ないでしょうが、日本人男子ではなくあえて)にはど真ん中ストライクでしょう。
残りの2本とは涙の種類が違って、じわ~っと熱いものがこみあげる感じ。
『PTU』が『野良犬』なら、今回は言うまでもなく『姿三四郎』。
しかも、『PTU』と違って、エンディングにはちゃんと“黒澤明”の文字が。
かつて将来を嘱望された柔道家だった司徒寶(ルイス・クー)も、今やクラブの雇われオーナー兼バンドマン。
しかも酒とギャンブルに溺れる自堕落な日々。
そんな司徒寶の店に、スターを夢見る小夢(チェリー・イン)がオーディションを受けに現れる。
こちらは、夢はでかいが才能はゼロ。
さらに、司徒寶に勝負を挑みにトニー(アーロン・クォック)も現れるが、トニーは落ちぶれた司徒寶を見て失望する。
こうして出会った3人に、奇妙な連帯感が生まれていく…。
ダメダメな男女に、柔道バカな男。
こんな3人が集まったところで何か凄いことが起きるはずもなく、なんてことはない日常が続きます。
でも、いいんだな~これが。
小夢の夢は日本に行って有名になること、トニーは司徒寶に立ち直ってもらって勝負がしたい。
そして、一番ダメダメな司徒寶の再生の物語。
チャウ・シンチーの『カンフーハッスル』では誰もにカンフーの心得がありましたが、この映画では誰もに柔道の心得が。
昼も夜も、店の中、路上、ビルの屋上、とにかく、投げる投げる!極める極める!
背負い投げや腕ひしぎ逆十字のオンパレード。
大の大人が路上で腕ひしぎ逆十字、いいですね~こういうの(笑)
女が夢を諦めきれず走り出したその時にも、男二人は道場で受け身をやってたり(笑)
それでいて、夜の街を捉えたカメラは相変わらずはっとするほど美しい。
司徒寶の脱げた靴を小夢が履かせてあげるシーンでは、『姿三四郎』屈指の名場面である三四郎(藤田進)が小夜(轟夕起子)の下駄の切れた鼻緒をすげてやるシーンを思い出してニヤリとなりますし、あれだけ路上で闘っていたのに、クライマックスだけなぜか草が生い茂る野原。
これももちろん、風吹き荒ぶ野原での三四郎と檜垣源之助(月形龍之介)の決闘へのオマージュ。(檜垣という名前も劇中何度も出てきます)
極めつけは、日本語の“口惜しかったら泣け~泣け~、泣いてもいいから前を見ろ♪”
これは、カウリスマキの『ラヴィ・ド・ボエーム』に日本語で“雪の降る町を~♪”が流れ出したのに匹敵します。
いまどき日本でも珍しい直球勝負の青春物語で、一歩間違えばとんでもないことになりそうですが、ジョニー・トー監督の手にかかるとこうも違うのか。
監督、二段肩車は反則です(涙)
決してジョニー・トー監督の最高傑作ではないでしょうが、琴線に触れるという点では『ヒーロー・ネバー・ダイ』に匹敵するレベル。
またもや愛すべきトーさん映画が1本増えました。
[原題]柔道龍虎榜
2004/香港/95分
[監督]ジョニー・トー
[執行導演]ロー・ウィンチョン
[脚本]ヤウ・ナイホイ/イップ・ティンシン/アウ・キンイー
[音楽]ピーター・カム
[出演]ルイス・クー/アーロン・クォック/チェリー・イン/レオン・カーフェイ/ジョーダン・チャン/チョン・シウファイ/カルバン・チョイ/ジャック・カオ/ロー・ホイパン
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