『イングロリアス・バスターズ』(クエンティン・タランティーノ)

イングロリアス・バスターズ

映画を愛する世界中の同士たちへ、タランティーノからの熱き想い、これが映画の力だ!
というわけで今回は、待ちに待ったタランティーノ最新作、『イングロリアス・バスターズ』です。

まだまだ公開が始まったばかりですので、なるべく内容には触れないように書きます。

何度か書いたことがありますが、傑作・名作というのとは違う、“映画への愛に溢れた”映画というのがあります。
映画の内容ではなく、監督の“映画”自体への愛。
そうめったにあるものではなく、当ブログでUP済なのは、オールタイムベスト『カイロの紫のバラ』を筆頭に、『ニュー・シネマ・パラダイス』『ラスト・ショー』と、たった3本だけ。
3本とも、“映画”の、“映画館”の果たす役割が、他の多くの映画とは別次元です。

タランティーノといえば、元々自分の大好きな映画を隠すことなくこれでもかと詰め込む、オマージュ(パクリとは違う)炸裂の監督ですが、今回はそれを超えて、映画そのものへの想いが炸裂。

主役の一人と言ってもいいショシャナは映画館の経営者。
そして、いろんなエピソードは彼女の映画館へと集約していき、コトは映画館で起きます。
映写室を見ると、アルフレードを思い出しますね。

イングロリアス・バスターズ メラニー・ロラン

予告編にもあったもろに『特攻大作戦』なシーンはありましたが、『地獄のバスターズ』はほとんど関係ないような…。

ですが、ブラピ以下バスターズは完全に脇役で、主役はどう見てもショシャナとランダ大佐。

ランダ大佐に扮したクリストフ・ヴァルツ、カンヌ国際映画祭ですでに男優賞を獲ってますが、ブラピなんかどうでもいいくらい、完全に彼の独壇場。
彼に尋問されたら、あのフランス人じゃなくたって泣きたくなりますよ。
しかも、ただの極悪人ではなく、誰よりもウィットに富んでいるところが素晴らしい。
脚本的な終盤のツイストも、彼だからこその説得力がありましたね。

イングロリアス・バスターズ クリストフ・ヴァルツ

他に役者的に特筆すべきなのはイーライ・ロス。
なんといっても、彼はユダヤ人ですからねぇ。○○を撃ちまくるあの表情には、演技を越えたものが。
彼にこの役をオファーしたタランティーノ、ほんとにいいやつだよなぁ。

さて、タランティーノ映画といえば、“会話”も大きな魅力の一つ。
とは言っても、本筋と何の関係もない会話が延々と繰り広げられたりするので、タランティーノ映画がダメという方はこの点がダメな方も少なくないようです。

自分は普段のそんなタランティーノ映画のどうでもいい会話も大好きですが、今回はどうでもいいどころか、完全に会話がメイン。

オープニングから、先ほども書いた相手が泣き出すほどのランダ大佐のトークが炸裂するわけですが、地下の居酒屋でのバスターズVSナチの将校の腹の探り合いの緊迫感は凄まじい。
会話だけであれだけの緊迫感を持続させるとは、“脚本家”としてのタランティーノの才能はまだまだ健在ですね~。

イングロリアス・バスターズ マイケル・ファスベンダー

ショシャナとランダ大佐の再会のシーンも凄い。
あそこでミルクを注文するとは!
流石はランダ大佐、思わずゾクゾクとしましたよ。

忘れてはならないのが、タランティーノ映画の魅力の一つ、サントラの素晴らしさ。
既存の音楽からこれは!というのを持ってくるセンスは、ウォン・カーウァイとタランティーノが双璧でしょう。

今回は先にサントラを買ってましたが、こうやって使ってきましたか。
オープニングクレジットからいきなりディミトリ・ティオムキンの「遙かなるアラモ」ですからね、いつの時代の映画なんだ(笑)

今回も大活躍のエンニオ・モリコーネからは、『ミスター・ノーボディ2』と同じ「エリーゼのために」使いの『復讐のガンマン』も。
パリのカフェのシーンに『荒野の1ドル銀貨』を使うなんて、タランティーノにしかできない芸当ですよね、しかも、むちゃくちゃ合ってるとこが凄い!

映像的には『特攻大作戦』をもってきながら、別のシーンですが、音楽では『戦略大作戦』を使うところなんかも憎すぎる!

一番インパクトがあったのはなんといってもデヴィッド・ボウイですね。
あそこで、あれを流しますか。

でも、今回のサントラで個人的に一番気に入ったのが、映画は未見ですが、『アロンサンファン/気高い兄弟』の「Rabbia E Tarantella」。
“燃え”と“泣き”が入った、かっこよすぎる1曲。これまたエンニオ・モリコーネ!やっぱりモリコーネは天才だよなぁ。
冒頭から「ONCE UPON A TIME・・・」と、レオーネやモリコーネへの愛情を隠そうともしないタランティーノも可愛過ぎる!

最後に、イギリス人やアメリカ人は英語を話し、フランス人はフランス語を話し、ドイツ人はドイツ語を話す、この当たり前のことを当たり前にやるだけで、こうも違うのか。
4カ国語を自在に操るクリストフ・ヴァルツはその点でも凄過ぎる!

いつものように自分の大好きなものへの愛情を惜しげもなくさらけ出し、さらに映画自体への想いも炸裂させた、タランティーノ渾身の一作。
期待通りの、いや、期待以上の大満足な1本でした。

 

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[原題]Inglourious Basterds
2009/アメリカ/153分
[監督・脚本]クエンティン・タランティーノ
[出演]ブラッド・ピット/メラニー・ロラン/クリストフ・ヴァルツ/マイケル・ファスベンダー/イーライ・ロス/ダイアン・クルーガー/レア・セドゥ/エンツォ・G・カステラッリ

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