『眼下の敵』(ディック・パウエル)

眼下の敵
過去記事をパラパラ見ていたら、もう何ヶ月も痺れる映画をUPしていないことに気づき、これはいかんと。

というわけで今回は、潜水艦映画の大傑作『眼下の敵』です。

Uボートに貨物船を沈められ、目の前で新婚の妻を亡くした男。

息子二人を戦争で亡くしたUボートの艦長。

第二次大戦中、南大西洋上で出会った二人は、己の頭脳と信頼できる部下だけを頼りに、好敵手との出会いを喜ぶかのように死闘を繰り広げる…。

米駆逐艦vs独Uボート。
その方面のマニアの方には、唸る描写も多々あることでしょう。
または、粗もたくさん見つかるでしょうか。

自分は、幸か不幸かその方面はさっぱりなので、単純に人vs人として楽しめるのが幸いなところ。
ただでさえ“人”に焦点を合わせてはいますが。

“人”ということについてはまず、これほど味方と敵を対等に描いた戦争映画もそうはないでしょう。
程度の差こそあれ、ほとんど全ての戦争映画では、敵の描写はひどいものです。
一昔前のアメリカ映画における日本兵が典型的ですが。

その点、この映画におけるアメリカ軍とドイツ軍は全く対等です。
よくあるナチス=極悪人というのとは全く違います。
1957年という製作年を考えると、これはかなり凄い。

そんな対等に描かれた、二人の艦長がこの映画の主役です。

初めは民間人の素人とバカにされながら、魚雷をかわしたことで一発で部下の信頼を得た米駆逐艦の艦長ロバート・ミッチャム。

眼下の敵 ロバート・ミッチャム

一時間置きに続く爆雷に神経がおかしくなり始めた部下を、「死も任務の一部だが、我々は死なない。信じるか、私を信じるか」と鼓舞する、前大戦からの叩き上げであるUボートの艦長クルト・ユンゲルス。

眼下の敵 クルト・ユンゲルス

1957年の映画なので、『クリムゾン・タイド』あたりと比べると素人目にも装置や兵器はたいしたことなさそうですが、その分ハイテクに頼らない“頭脳戦”をたっぷりと堪能させてくれます。(『クリムゾン・タイド』の出航前の役者当てクイズにこの映画が出てきましたね)

感覚としては、『沈黙の艦隊』の海江田vsベイツ大佐みたいな感じでしょうか。(あれは潜水艦vs潜水艦ですが)
“空城の計”が、相手が自分を認めているからこそ成立するように、相手を“できる奴”と認めた上で、その一歩でも半歩でも先を行こうと知恵の限りを絞る。

それでも前大戦よりは格段に兵器も進化しているようで、ユンゲルスは「人間的な過ちは失せ、戦争から人間味が失せた」と嘆いていました。

『沈黙の艦隊』といえば、海江田はモーツァルトを流しましたが、今回のドイツ軍はレコード+大合唱。
『カサブランカ』の「ラ・マルセイエーズ」にも負けない屈指の名場面。

ニヤリと笑い、「ワルツの伴奏をしよう」と爆雷を浴びせるミッチャム。
いいですね~こういうの。

先ほど兵器はたいしたことなさそうと書きましたが、国防総省と合衆国海軍全面協力の下、駆逐艦も爆雷も本物のようです。

Uボートは海底で、駆逐艦は洋上でエンジンを停止し、我慢比べをしている時の静寂。
駆逐艦の隊員が暇つぶしにしていた釣りの、釣り糸をカメラが追い海中に入ると、真下にUボートがいるシーンなんかたまりませんね。

敵対する者同士に芽生える友情といえばトーさんの十八番ですが、『ヒーロー・ネバー・ダイ』『暗戦 デッドエンド』を足しても、この映画のラスト10分にはかなわないでしょう。
“敬礼”から後はもう痺れまくり。

痺れる男同士の友情を描いて、“仕草”の最高峰が『さらば友よ』のラストシーン、“笑顔”の最高峰が『ガンマン大連合』のトーマス・ミリアンなら、“会話”の最高峰はこの映画のこのやりとりでしょう。

「では今度はロープを投げるまい」
「いや、投げるね」

眼下の敵 ロバート・ミッチャム クルト・ユンゲルス

ご覧になったことがある方には通じるかと思いますが、このかっこよさは尋常ではありません。

海の上での男と男の闘い、そして友情。

文句なしの大傑作。

[原題]The Enemy Below
1957/アメリカ/98分
[監督]ディック・パウエル
[出演]ロバート・ミッチャム/クルト・ユンゲルス/セオドア・バイケル

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