『クリムゾン・タイド』(トニー・スコット)

クリムゾン・タイド

皆さんは、映画の中の名演説というと、どれを思い浮かべますか?

多くの方がそうだと思いますが、双璧は『独裁者』でのラストのチャップリンの演説と、『スミス都へ行く』でのジェームズ・スチュワートの議会での24時間ぶっ続けでの演説ですよね。

両作品とももちろん名作中の名作ですが、やっぱりこれでしょう!
というわけで今回は、ジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンが火花を散らした潜水艦映画『クリムゾン・タイド』です。

サスペンスなのでストーリーは省略。

いざ出航の時、降りしきる雨の中、ひさしの下に整列する乗組員たち。
そこへ、傘をさしたラムジー艦長(ジーン・ハックマン)が愛犬を連れ現れます。
「全員整列いたしました!」と艇長。

クリムゾン・タイド ジーン・ハックマン 犬

そしていよいよ、ラムジー艦長の名演説が始まります。
日本語字幕で書くとかっこよさが半減するので、長いですが原文で全て引用します。
まだましな吹き替えの日本語も下に付けます。

Ramsey: “Little ducks, there’s trouble in Russia.
ラムジー「アヒルどもよ、ロシアでトラブルだ。
So they called us.
それで喚ばれた。
And we’re going over there
だから我々は行く。
and bringing the most lethal killing machine ever devised.
ただし、最も凶悪な殺しのマシーンに乗ってだ。
We’re capable of launching more firepower,
その気になれば、
than has ever been released in the history of war.
戦争の歴史を塗り替える程の、強力な兵器を発射できるのだ。
For one purpose alone: to keep our country safe.
目的はただ一つ、祖国を守るためだ。
We constitute the front line and the last line of defense.
我々は国防の最前線に就き、同時に最後の防衛線となる。
I expect and demand your very best.
諸君に望むことは、最善の努力だ。
Anything less, you should have joined the Air Force.”
それができない者は、空軍に入ってもらいたい。」

(乗組員の間に笑いが起こる)
(ハンス・ジマーの音楽始まる)

Ramsey: “This might be our Commander-in-Chiefs Navy,
ラムジー「最高司令官は大統領であるが、
but this is my boat.
これは私の船だ。
And all I ask is that you keep up with me.
それに乗る以上は、私に従ってもらいたい。
And if you can’t
それができない者は、
that strange sensation you’ll be feeling in the seat of your pants will be my boot in your ass!”
ケツの辺りに刺激的な感覚を覚えるであろう、私の蹴りが入るからだ!」

(再び笑いが起こる)

Ramsey: “Mr. Cob?”
ラムジー「ミスター・コッブ!」
Cob: “Yes, sir!”
コッブ 「はい、艦長」
Ramsey: “You’re aware of the name of this ship, aren’t you, Mr. Cob?”
ラムジー「この船の名前を知っておるか?」
Cob: “Very aware, sir!”
コッブ 「よく知っております!」
Ramsey: “It bears a proud name, dosen’t it, Mr. Cob?”
ラムジー「それは誇り高い名前であるか?」
Cob: “Very proud, sir!”
コッブ 「誇り高い名前であります!」
Ramsey: “It represents fine people.”
ラムジー「乗組員は優秀であるか?」
Cob: “Very fine people, sir!”
コッブ 「極めて優秀であります!」
Ramsey: “Who live in a fine, outstanding state.”
ラムジー「偉大なる国に住む者か?」
Cob: “Outstanding, sir!”
コッブ 「偉大なる国の者であります!」
Ramsey: “In the greatest country in the entire world.”
ラムジー「そこは世界に冠たる国であるか?」
Cob: “In the entire world, sir!”
コッブ 「世界に冠たる国であります!」
Ramsey: “And what is that name, Mr. Cob?”
ラムジー「この船の名はなんだ?」
Cob: “Alabama, sir!”
コッブ 「アラバマであります!」
Ramsey: “And what do we say? “
ラムジー「気合いを入れろ!」
Ramsey & Cob: “Go ‘Bama!”
ラムジーとコッブ「ゴー! バマ!」
All crew: “Roll tide!”
乗組員全員「ゴー! バマ!」
Ramsey: “Chief of the boat, dismiss the crew.”
ラムジー「艇長、乗組員解散!」

見てわかるように、民主主義の理想だとか、人類愛の尊さだとか、そんな立派なことを話しているわけではありません。ただ乗組員を鼓舞するためのものです。
でも、何度聞いても鳥肌が立ちます…。

「空軍に入ってもらいたい」と「私の蹴りが入るからだ!」のところで乗組員から笑いが起きるのもいい。
絶対の上下関係にありながら、艦長の冗談に乗組員が笑うことができる、こんな些細なことが、ただ力で下の者を押さえつけているのではない、真の信頼関係を見事に表現。

隣で聞いているデンゼル・ワシントンが浮かべる笑みもたまりません。
ハーバード出のエリートの新任副艦長の彼が、叩き上げのベテラン艦長がいかにして乗組員の心をつかんでいるのか、それを目の当たりにしたこの場面。
ふと浮かべたさりげない笑みで、見事にそれを表現しています。

クリムゾン・タイド デンゼル・ワシントン

バックに流れるのは、ハンス・ジマーの涙がちょちょぎれるくらいかっこいい旋律。
『グラディエーター』の音楽もかっこよかったですが、ハンス・ジマーの最高傑作はこの作品でしょう。

主役の二人以外で特筆すべきは、アラゴルンことヴィゴ・モーテンセン。
○○○○(一番肝心なネタばれなので伏せておきます)の命令を聞いて拳を握りしめる彼を観て泣かない男は男ではありません。

クリムゾン・タイド ヴィゴ・モーテンセン

デンゼル・ワシントンに○○(同じく伏せます)を譲り、煙草をふかしつつ艦の中を降りていく哀愁溢れるジーン・ハックマンに震えがこない男も男ではありません。

クリムゾン・タイド ジーン・ハックマン

ラストのジーン・ハックマンのユーモアに溢れた台詞はもうかっこよすぎますね。
この台詞次第ではこれまでの素晴らしさがパーになるところでしたが、パーになるどころか映画を一段高いところに引き上げています。

通信の途絶えた潜水艦内という密室で繰り広げられる息もつかせぬサスペンス、それをさらに盛り上げるハンス・ジマーの痺れる旋律、自らの仕事に誇りを持った男たちが下す、何百万の人々の命を左右する決断の数々、そんな中にあっても忘れないユーモア。

必見。

 

クリムゾン・タイド [Blu-ray]

[原題]Crimson Tide
1995/アメリカ/115分
[監督]トニー・スコット
[脚本]マイケル・シファー/リチャード・ヘンリック/クエンティン・タランティーノ(リライト、クレジットなし)
[音楽]ハンス・ジマー
[出演]デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/マット・クレイヴン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ

→予告編 →ラムジー艦長の演説 →他の映画の感想も読む

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