『ある殺し屋』(森一生)

ある殺し屋

『意外』の予告編にいただいたコメントで『必殺』シリーズの名前が出ましたので、今回はこんな映画を。

以前いつもお世話になっているにじばぶ様にも“男ならこれを観ろ!”に投稿していただきました、和製ノワールの傑作『ある殺し屋』です。
にじばぶ様、ありがとうございます!

にじばぶ様も書かれていますが、オープニングが抜群に素晴らしいですね。

人一人歩いていない、だだっ広い埋め立て地を歩く一人の男。
何かを確かめるようにボロ小屋を覗き込むと、近くにあるこれまたむちゃくちゃボロいアパートへ。
すぐ隣には、誰も訪れて来そうにない寂れた墓地。

出来過ぎだろ!というくらい、ノワールの舞台としては完璧でしょう。
ここまで一切台詞はなし。
風景と、男の立ち振る舞いだけで、一気にこの世界に引きずり込まれます。
カメラは宮川一夫、素晴らしいわけだ。

ある殺し屋 市川雷蔵

部屋を借りた男が、家具一つないボロ部屋の畳の上で包みを広げると、姿を現す二丁の拳銃。
そこに被さる『ある殺し屋』のタイトル。
『ウエスタン』『ペイルライダー』がオープニングだけで傑作だと確信できるように、この映画もここまでで既に傑作であることを確信。

この殺し屋塩沢に市川雷蔵。
実は凄腕の殺し屋ながら、普段はしがない小料理屋の主人。
武器は、拳銃も持っていますが、必殺技は畳針。
どこかで聞いたことのある設定ですね。
クールさにおいて、『サムライ』のアラン・ドロンに十分対抗できます。(2本とも同じ1967年!)

ただ、『サムライ』のアラン・ドロンは、ナタリー・ドロンやピアニストの存在はありましたが、基本的に話し相手は飼っている小鳥だけという、圧倒的な孤独がそこにはありました。

それに対して、この映画の市川雷蔵の周りには、彼に負けない存在感の脇役たちが。

健気に塩沢に尽くしてきた若い女中(若き日の小林幸子)を追い出して、強引に小料理屋に転がり込んだ圭子(野川由美子)。
本人が言っていたように、13で家出して以来、一人ぼっちで生きてきた女。無銭飲食しては体で払うという強者です。
次から次へと男を渡り歩き、今回も、一緒にいる男をこてんぱんにやっつけ、しかも財布に札束の山を見つけ、これは金の匂いがする!と彼に近づくことに。

塩沢は全く相手にしませんが、強引に居座る圭子。
小料理屋の接客では、水商売としての実力を発揮(笑)

そんな塩沢に仕事の依頼が。
頼みに来たのは、あるヤクザの幹部である前田という男。ここに成田三樹夫!
粘る前田ですが、どれだけ頼まれても首を縦に振らない塩沢。

それならと、今度は組長木村自ら頭を下げに来ます。この木村に小池朝雄!
いい面子ですね~。

ある殺し屋 小池朝雄

ヤクザ同士のいざこざなどどうでもいい塩沢はやはり断りますが、木村の粘りに負け、ついには仕事を受けます。
しかし、500万の依頼だったのに、2000万を要求!

“仕事”ぶりは観てのお楽しみとしておきますが、ホテルの廊下でのやりとりは、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』を彷彿とさせますね。

そのあまりの仕事の見事さ(というより仕事の割の良さ)に、弟子入りを志願する前田。
断る塩沢ですが、諦めずにちょくちょく小料理屋に顔を出すようになる前田。

金目当てで塩沢に近づいた者同士、結びつく圭子と前田。
塩沢の金と前田の色気が欲しい圭子。
同じく金が欲しくて圭子を自分だけのものにしたい前田。
な~んだ、塩沢さえいなくなれば全てが手に入るじゃんと、彼を消す計画を練り始める二人。
しかし、相手は凄腕の殺し屋。そう簡単にはいきません。

ヤクの横取りという3人での仕事を計画し、その最中でのチャンスを伺います。

以下、ネタバレ全開

未見の方は、ご注意下さい。

無事仕事を終え、分け前を配るという時に、隙を見てついに塩沢に拳銃を向ける前田。
しかし、なかなか引き金が引けません。

「お前は若いなぁ、一寸先も見えちゃいねえ、そんな物は早くしまいな」
「でけえ面すんな!命が惜しけりゃ這いつくばって頼むんだ!笑ってやるぜ」

横では、さっさとやっちゃいなさいよ!と騒ぐ圭子。

顔色一つ変えずに冷静沈着な塩沢と、冷や汗たらたらで引き金が引けない前田。

ある殺し屋 成田三樹夫

ついに思い切って引き金を引くも、弾は出ません。

「俺の負けだ、どうにでもしてくれ!」と殺されるのを覚悟した前田に、「仕事は仕事だ」と分け前を与え、自分も若かった時は同じことを考えたさと、何もなかったかのように二人を許す塩沢。

「塩沢さん…」

さっきはあんな口をきいていたのに、再び塩沢に敬称をつける前田。

その後、ヤクを横取りされた連中との大乱戦がありますが、映画が痺れるのはラストシーン(正確にはその後もう少しだけありますが)。

金のためではなく心から弟子入りを願う前田が一緒に連れてって下さいよと頼むと、「色と仕事のけじめのつかねえ男はごめんだな」の決め台詞を残し、取り分もあげて一人去っていく塩沢。

そこへ、少し離れたところにいた圭子が戻ってきて、一緒に連れてってよと前田に頼みます。

ここでの成田三樹夫が、おいしいところは全部持っていってしまいます。

「女は色と仕事のけじめがつかねえ、ごめんだな」

ヤクも置いたままで、一人去っていく前田。
むちゃくちゃかっこいいですが、直前に自分が捨てられた台詞の完全にパクリです(笑)
このかっこいいんだか情けないんだかよくわからない成田三樹夫が最高!

さて、この映画の素晴らしさのさらなる点は、時間がわすが82分だということ。
しかも、その短い中で、『パルプ・フィクション』のように時間軸の交差をやったりして、なかなか脚本も凝っています。

市川雷蔵のかっこよさだけでも十二分に痺れる映画ですが、それに負けない成田三樹夫がおいしいところは持っていき、小池朝雄までついてきて、脚本も素晴らしく、撮影は宮川一夫という、むちゃくちゃ贅沢な1本。

必見の傑作。

1967/日本/82分
[監督]森一生
[脚本]増村保造/石松愛弘
[撮影]宮川一夫
[出演]市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/小池朝雄/小林幸子

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