今回は、“男ならこれを観ろ!”(まだまだ募集中です!)に投稿していただいた中から、きのこスパ様、にじばぶ様ご推薦、フィルム・ノワールの最高峰『サムライ』です。
御二方、ありがとうございます!
ずっと観たかったんですが、ようやく観れました。
孤独な殺し屋、ただ一つ必要とされることを願った愛人、謎めいたピアニスト、主に危険を知らせる唯一の友である小鳥、弾の入っていない拳銃、百戦錬磨の刑事、依頼主の裏切り、そして第二の依頼。
ブルートーンで統一された、孤独を滲ませたあまりに美しいアンリ・ドカエのカメラ、動きに完璧にシンクロした、フランソワ・ド・ルーベの哀しき旋律。
そして何より、アラン・ドロンのかっこよさが尋常ではありません。
脇を固める、ナタリー・ドロン、フランソワ・ペリエも素晴らしい演技をしていますが、とにかくアラン・ドロン、今まで観た中で(少ししか観てませんが)ダントツにかっこいい。
刑事たちの尾行をまくために、この映画では、アラン・ドロンはひたすら歩きます。
しかも、他の映画ではちょっと考えられないくらい、歩くシーンが凄く長い。
もちろん、その間台詞は一言もありません。
普通ならそんなシーンばかり続いたら飽きちゃいますが、飽きるどころか、上映時間105分全て歩くシーンでもいいくらい、どのシーンを切り取っても絵になるかっこよさですし、足音の一つ一つがどんな言葉よりもジェフの心を雄弁に語っています。
中でも白眉は、鉄橋の上をある男目掛けてジェフが真っ直ぐに歩いてくるシーン。
『第三の男』のラストシーンにも匹敵する、鳥肌ものの極上の名場面。
このように、この映画は台詞が極端に少ない。
これはジョニー・トー監督のノワールものにも言えることですが、台詞に頼らず“絵”で見せるこの姿勢が何より素晴らしい。
ビデオで観たんですが、仮にテレビの音を消してサイレント映画として観たとしても、何一つ不自由することはないでしょう。(もちろん、前述の足音と、その足音と見事に調和しているド・ルーベの音楽があればよりいいですが)
『白い花びら』を撮るに際してカウリスマキが言った言葉を思い出しました。
「シネマのエッセンスは言葉のない世界だから、そこに回帰したかった」
もう一つ触れておきたいのが、『あるいは裏切りという名の犬』の時に書いた、フィルムノワールの出来の物差しである“濡れた石畳”、さすがアンリ・ドカエ、絶品でした。
2007年は『放・逐』がぶっちぎりのベストワンだと思ってたのに、ジャン=ピエール・メルヴィル、アラン・ドロン、アンリ・ドカエ、フランソワ・ド・ルーベと揃えば、そりゃ傑作にならない方が嘘でしょうが、『放・逐』に負けず劣らず素晴らしい。
まあトーさんにはかなり贔屓目が入っているので、客観的には『サムライ』の方が断然凄いのかも。
これでますますジョニー・トー×アラン・ドロンが楽しみになってきました。
惜しむらくは、この1967年当時のアラン・ドロンをトーさんに監督して欲しかったなぁ…。
[原題]Le samouraï
1967/フランス/105分
[監督]ジャン=ピエール・メルヴィル
[撮影]アンリ・ドカエ/ジャン・シャルヴァン
[音楽]フランソワ・ド・ルーベ
[出演]アラン・ドロン/ナタリー・ドロン/フランソワ・ペリエ
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