No.63 It’s a show time!

今回の話題は今節のセリエA注目対決3戦のうちの一つ、我がインテルVS因縁のラツィオの大一番。戦前の予想に反し前節でついに首位に立ったラツィオ、そしてミラン、ユーべとともに2位につけるインテル、セリエAの前半戦を占う大事な一戦を迎えました。

そして今回の主役は、クレスポでもヴィエリでもレコバでも、相手のクラウディオ・ロペスでもなく、インテルのトルコ代表エムレ・ベロゾール。アンビリーバブルな仕事をやってのけてくれました。

そして、なぜラツィオが因縁の相手なのか。そうインテリスタならスクデッドを獲得するまでは決して忘れることはないであろう1日、2002年5月5日、舞台は今回と同じローマのスタディオ・オリンピコでした。昨シーズン最終節を迎える段階で首位に立っていたのは我がインテル。勝てば文句なしのスクデッドだったにも関わらず、守備陣が崩壊してラツィオに惨敗。その瞬間13年ぶり14回目のスクデッドはその手からこぼれ落ちたのでした。

そして首位だったにも関わらず一気に3位にまで落ちてチャンピオンズリーグも予選から出なければいけなくなるなど、インテリスタにとっては最悪の日でした。ロナウドがベンチで涙を流していたシーンを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

そして、最後の最後でも崩壊してしまった守備陣を立て直すため、インテルは一気に補強に出ました。センターバックには世界でも数本の指に入るカンナヴァーロを獲得し、パラグアイ代表ガマーラまで獲得。それにマテラッツィ、コルドバまで揃うセンターは、世界中の監督が羨む陣容でしょう。

右サイドには鉄人サネッティ、そしてゲオルガドスなどが務め“ざる”とまで酷評された左サイドバックにもイタリア代表のココを獲得。寄せ集めの感は否めないためユーベなどに比べると安定感には欠けますが、メンバー的には世界レベルのDFラインが完成しました。

さらにその“因縁”のラツィオからエースクレスポを獲得。そしてそのラツィオはエースクレスポだけでなく世界最高のDFネスタまで放出。それにしてもラツィオ、優勝した3年前は錚々たる顔ぶれが揃っていましたが、昨シーズンにベロン、ネドベドを放出し、今シーズンはネスタにクレスポを放出。しかし、ペルッツィ、スタム、シメオネ、クラウディオ・ロペスなど、要所要所に役者は揃っています。

そんなわけでスタメンはまずアウェーのインテルから、GKトルド以下、DFラインは中央にカンナヴァーロとコルドバ、左パスカーレに右サネッティ。中盤は中央にアルメイダとエムレを配し、右オカン、そして今回は左に入りましたセルジオ・コンセイソン。そしてツートップは今やお馴染みクレスポにヴィエリ。お気に入りレコバはベンチからのスタートでした。

一方ホームのラツィオはGKペルッツィ、かつてはアズーリの正GKだったペルッツィですが、相変わらず堅実なセービングを見せてくれています。そしてDFはスタム、ネグロ、フェルナンド・コウト、パンカロ、ここはかなり不安です。特にポルトガル代表フェルナンド・コウト、ポカをやらせたら天下一品です。

中盤はフィオーレ、シメオネ、スタンコヴィッチ、セサル、そしてツートップはクラウディオ・ロペスとコッラーディ。

そして監督はご存知ロベルト・マンチーニ。前にこの日記で、現役ではバッジョとレコバくらいのレベルではないと“ファンタジスタ”という言葉は軽々しく使うべきではないと書きましたが、現役時代のマンチーニは紛れもなくファンタジスタでした。左CKから誰かが蹴ったボールをダイレクトでヒールキックでネットにライナーで突き刺したゴールは今でも鮮烈に覚えています。

そして大一番は始まったわけですが、やはりオリンピコはインテルにとって鬼門なんでしょうか。試合開始早々からレベルの違いを見せつけてきたのはラツィオの4人の中盤。インテルの4人の中盤は目に見えて劣勢。

主に個人で仕掛けていくしかないインテルの選手に比べて、ラツィオはボールを持っている選手の近くの2人くらいがしっかりフォローしていて、常に局面局面で2、3人が連動。これは何も驚くべきことではなくて、むしろ誰もがやるべきプレーなんですが、インテルにはそれができません。

そしてラツィオ優勢の状況は早くも形となって現れ、前半10分、アルメイダのハンドで得たPKを、クラウディオ・ロペスが楽々と決めてラツィオ先制。

インテルもなんとか反撃を試みるものの、相変わらずラツィオの中盤がインテルを圧倒。このあたりは完璧にワンサイドゲームでした。

そして30分過ぎ、またもクラウディオ・ロペスが決めてラツィオが追加点。

これにはクーペル監督もさすがにこのままではやばいと思ったのか、失点直後、まだ前半にも関わらずオカンを下げて早くも切り札レコバ投入。

しかしその策をあざ笑うかのように、そのわずか数分後またもやクラウディオ・ロペスが決めてなんと前半で3-0。しかもクラウディオ・ロペスのセリエA初のハットトリックというおまけ付き。

インテリスタとしては半年前のあの悪夢が甦る展開・・・。ただでさえカウンター1本のインテル、3点のビハインドを跳ね返す爆発力は残念ながらありません。管理人も愚かにもこの時点で試合を諦めました。

しかししかし、イタリアダービーでもトルドの奇跡の上がりでロスタイムに追いついたインテル。今シーズンのインテルはここで終わるようなチームではありませんでした。

まずは3点目の直後、左サイドをドリブルで駆け上がったレコバ、中をちらりと確認すると、スピード、コース、高さ、すべてパーフェクトなクロスを上げると、それに完璧に合わせたのが頼りになる男クレスポ。彼のヘディングも、高さ、強さともパーフェクトでしたが、シュートはバーを直撃。しかし、リバウンドがヘディングを競った際に倒れこんだフェルナンド・コウトの体に当たりゴールマウスの中に・・・。これで3-1。

何かを起こしそうな予感を漂わせる、反撃の狼煙を上げる一発。コウトにとってはどうしようもない状態で、ラツィオにとっては不運な失点でした。そして前半は3-1とラツィオリードで終了。

そして後半、インテルは先ほどの1点で息を吹き返したのか、ようやく積極的なプレーを見せ始めました。しかしなかなか決定的なチャンスとまではいかず、2点のビハインドはインテルイレブンに大きくのしかかろうとしていました。

しかししかし。ここから今回の主役エムレ・ベロゾールのショータイムが始まりました。思わず“It’s a show time!”と叫びたくなるような完全な一人舞台。

まずは67分、ゴール正面、ペナルティエリアよりはまだいくぶんか手前、軽く20メートル以上はあったでしょう、ボールを持って前を向いたエムレ、GKペルッツィがわずかに前に出ていることを確認すると、その距離にも関わらずなんと選択肢はループシュート。美しい曲線を描いたボールは、見上げるペルッツィの上を悠々と越えていき、そのままゴールに吸い込まれていきました。

どんな賞賛の言葉を並べてもこのシュートを褒めるには足りないでしょう。一言で言えば“Beautiful!”、以上。

その美しい弾道はぜひ映像で堪能してください!全6ゴールも見られます。この映像のイタリア国営放送RAIも、同じレフティーだからでしょうか、あのマラドーナの名前を出していました。

これだけでも彼にとっては生涯忘れられない日になったでしょうが、ショータイムはこれで終わりませんでした。

そのわずか10分後、今度はピッチ中央をドリブルで駆け上がったエムレ、そして効き足ではない方の右足で放たれた鋭いシュートは、GKペルッツィの左手の先をかすめゴールネットに突き刺さりました。2点ともペルッツィにはどうしようもないでしょう。おそらくブッフォンをもってしても結果は同じ。決めたエムレを褒めるしかありません。これで3-3の同点に。

そして5月5日の悪夢を振り払うかのように、インテルイレブンは同点では満足せず、3-0からの大逆転劇を目指しさらなる猛攻をしかけました。レコバが相変わらず精密機械のように上げたクロスに合わせたヴィエリのヘディング、同じくレコバのCKに合わせたクレスポのポストに阻まれたヘディング、4点目が入ってもおかしくない猛攻をしかけましたが、試合はそのまま3-3で終了。

前回の日記で守るだけのセリエAは見る気もおきないと書きましたが、セリエAにもたまにはこういう試合があるものです。そしてあんなにつまらないサッカーを続けていたインテルですが、3点のビハインドを負えばこれくらいの攻めもできるというのも見せてくれました。普段のインテルとは同じチームとは思えないほどの攻め。こんなことならいつも2、3点のビハインドを背負って戦ってもらいたいものです。“スペクタル”という言葉を使うのが惜しくない、素晴らしい試合でした。

そして主役は文句なしでエムレ・ベロゾール。いつもこのレベルのプレーができれば間違いなくワールドクラスなんですが、好不調の波があるため、スタメンの座すら確保できていません。

それだけインテルの選手層が凄いといえば凄いんですが、言い方を変えればそれだけ中盤のメンバーを固定できていないということ。ツートップとDFラインはほぼ固まってきましたが、中盤は試合の度にメンバーが変わります。メンバー層は確かに厚いんですが、それだけ突出した選手がいないのも事実。クーペルの悩みは続きます。

それでもクーペルも試合後のコメントでは当然エムレを絶賛。これでクーペルの信頼はワンランク上がったはずです。

そして今節の大一番残り2試合は結果しか見てませんが、ミランはローマに1-0で勝利。この日はベンチからスタートしたインザーギが値千金の決勝ゴール。インザーギも、この前のマドリー戦で決めたシェフチェンコも、ともにワールドクラスの決定力です。これでローマはなんと11位に後退。順位表の一枚目にも入らない始末。首位とはなんと勝ち点差12。12月前半にしてスクデッドは絶望でしょう。

そしてこの試合では終了間際に数分間ながらレドンドがついにセリエAのピッチに立ちました。マドリー時代の絶好調時は、“エレガント”の一言だったレドンド。多くのレフティーは左足だけでプレーしますし、今回の主役エムレもそのボールタッチのほとんどは左足です。それでもたまには右足も使うわけで、しかしレドンドが右足を使うのはそうそう見れるものではありません。文字通り左足1本。しかしそのボール扱いはスポーツの域を軽く越え、悠に芸術の域に達していました。

ピルロに代わるレジスタ(トップ下ではなく日本でいうボランチの位置からゲームを組み立てる選手)がいないミランにとって、レドンドが加わったのはまさに鬼に金棒でしょう。

そして3試合目はヒデと俊輔の日本人対決。日本からも多くの人が見に行ったようですが、試合はパルマが順当に2-0で勝利。延期になっている試合があるので暫定的ですが、これでえパルマは5位に浮上。若返ったメンバーにしては大健闘を見せています。一方のレッジーナは13試合で勝ち点はわずかに7。俊輔は孤軍奮闘を見せているものの、このままでは降格街道まっしぐらでしょう。

さらに、対戦自体は注目ではなく、ユーベの順当勝ちに終わると思われていたブレシアVSユベントスでブレシアが大番狂わせを演じてくれました。管理人にとってバッジョは別格というのは何度も書いていますが、チームとしてはセリエAではインテルを応援しているものの、バッジョを応援しているのは言うまでもありません。そのバッジョ率いるブレシア、なんとユーべ相手に2-0で勝利。一方的に押されながらも数少ないチャンスを決めて勝ったようですが、勝ちは勝ち。そして今シーズンここまで無敗を誇っていたユベントスについに土がつきました。

この結果首位争いはまたもやミランが首位に立ち、そこから勝ち点差1ずつで2位ラツィオ、3位インテル、4位ユベントス。ユーべまでが勝ち点差3で、ミラノの2チームとユーべ、ローマで形成されるはずのビッグ4でしたが、早くもローマが脱落した今、代わりにラツィオがビッグ4に踊り出ました。そして次節はそのラツィオとユベントスが直接対決。前半戦一番の大一番になりそうです。

そして順位表を見ていて目が止まったのが、ミランの失点が9と、他のビッグチームと比べて一番少ない点。鉄壁の守備を誇っているユーべでさえ今節の2失点で失点は10。それでも1試合平均1失点を軽く下回っているのはさすがユーべですが、そのユーべより失点が少ないのがミラン。

前回の日記にも書きましたように、セリエAに革命をもたらす攻撃的サッカーを展開しているミラン、ルイ・コスタやインザーギ、ピルロばかりに注目が集まっていますが、そんな彼らが自由に攻撃できるのも、最小失点を誇るDFラインが後ろに控えているからこそです。

ネスタは今は出てませんが、シーズン序盤、右からシミッチ、ネスタ、マルディーニ、カラーゼと並ぶDFラインは不動でしたし、ネスタを欠いても代わりに入っているコスタクルタが流石の守備を見せ、インテルとマドリーを楽々と完封。そして左サイドのカラーゼもマドリー戦の時に書きましたが、フィーゴに1対1で圧勝。この鉄壁の守備が続いている間はミランの快進撃は続くでしょう。

我がインテルは失点はここまで15ですが、上記2チームに比べれば見劣りますが、昨年までのことを思えば上出来でしょう。そして脱落したローマはなんと13試合で失点22。11位に低迷するのも当たり前です。この失点の多さではセリエAで上位にはこれません。

そんなわけでずいぶんと長くなりましたが、今回は何を差し置いてもエムレ・ベロゾールの“It’s a show time!”。悲劇の地オリンピコで悪夢再び!?という展開でしたが、たった一人でインテルを救ってくれました。このまま順調に成長していって、ぜひワールドクラスの選手になってほしいものです。

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