『地下鉄のザジ』(ルイ・マル)

地下鉄のザジ

『死刑台のエレベーター』のルイ・マル監督作品。同じ監督が撮った作品とは思えません。
この2本だけでも彼の才能の凄さがうかがえます。1960年にこんな映画を作っていたということだけで驚愕に値します。

田舎からパリに遊びに来た10歳の少女ザジの一番の楽しみは、生まれて初めて街の地下鉄に乗ること。
しかしあいにく地下鉄はスト中。ふらりと一人で街に出たザジに待っていたものは…。

初めに断っておきますが、誰もにお薦めできる映画とは思えません。ツボにはまるか、完全に毛嫌いするかのどちらかでしょう。それくらい「普通」の映画とはまったく違います。
スラップスティック・コメディという手法だそうですが(詳しい方はお教え下さい)、普通なら写すところも、とにかく余分なものは全部飛ばして、圧倒的なスピード感で進んでいきます。

子役も可愛いこの映画ですが、例えば『コーリャ 愛のプラハ』のコーリャなどは、見た目からやることからすべてが可愛いですが、ザジはそういう可愛さとはこれまたまったく違います。可愛くもあり可愛くもない、そんな感じです。

地下鉄のザジ

10歳だというのにやけにませていて、放送禁止用語は連発しますし、大人顔負けの物の考え方をします。
変な大人たちの中で、一人だけ冷静なのがザジなのです。はっきり言って「子供」ではありません。

そんなザジと、これまたかなり「奇怪」な大人たちとのドタバタ喜劇ですが、ただ笑うだけでなく、シュールな場面も続出します。

笑いという点でも、お腹をかかえて笑えます。レストランでザジがムール貝を食べ散らかすシーン、トルースカイヨンとの追いかけっこは傑作です。

そして、映画には数多くの名台詞がありますが、本作品の「何してたの?」に対してザジが答える「年とったわ」も、間違いなく名台詞中の名台詞だと思います。
こうやって読んでるだけでは何のことだかわからないと思いますが、観てもらえばわかると思います。ハチャメチャなことが連発するだけに、一層この言葉のインパクトは強烈です。

最後に、92分しかないにも関わらず、観終わった後の消耗度も一級品です。間違っても疲れている時などにはお薦めできません。体力が有り余っている時限定の1本です。

ひょっとしたら「何だよこの映画!」と思われるかもしれませんが、こういう映画もあるんだと、そういう発見をするためにも、“観て損はない”1本ではあると思います。特に、ハリウッド映画しか観たことない方は、カルチャーショックを受けること間違いなしです。

 

地下鉄のザジ [Blu-ray]

[原題]Zazie dans le métro
1960/フランス/93分
[監督]ルイ・マル
[出演]カトリーヌ・ドモンジョ/フィリップ・ノワレ/カルラ・マルリエ

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