自分の後に住むであろう住人に宛てた手紙が、2年前の住人に届いてしまったことから起こる、時を超えたラブ・ファンタジー。
多くの方が指摘しているようにラストは!?ですし、ツッコミを入れようと思えばおかしな点は多々ありますが、そんなふうにこの映画を観てはいけません。
元々1999年を生きている人間と1997年を生きている人間が手紙のやりとりをすること自体“普通”ではないわけで、頭ではなく心で観る映画。
そして、あのポストなら、その手紙のやりとりに何の違和感もないのです。
2年の時を超えたやりとりという設定もうまくいっていて、2年前の忘れ物を届けてもらうおかしさ、ソンヒョンが“2年前の”ウンジュに会う駅のシーンでの、こっちは相手のことを知っているのに相手は自分のことを知らず話しかけても怪訝な顔をされる切なさ。
お互いに、自分の好きな行動を手紙に書いて相手に実行してもらうエピソードも素敵。
ソンヒョンがウンジュにしてもらったのは、バスに乗って、ある駅で降りて、カラマツの並木道を歩いて、疲れるまで歩いた先にあるカフェでワインを飲むというもの。
こちらはまともなんですが、ウンジュがソンヒョンにしてもらったのは、コンビニで買ったビールをぐっと飲み干して、思い切り走った後、遊園地のバイキングに乗るというもの。さすが『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョン!
今回は全然猟奇的ではありませんが、このシーンではその片鱗が(笑)
さらに、映像への監督の徹底したこだわりが完成を遅らせたというだけのことはあって、全編うっとりする美しさ。
料理の材料、干された洗濯物、宵に浮かぶイルマーレ、凝りに凝ったイルマーレの室内のセット、済州島のサンゴ礁の砂浜、ライトアップされた木など、どれもがみんな“絵”になる美しさ。
中でも一番のお気に入りは、イルマーレとポストを結ぶ桟橋。その桟橋をローアングルでカメラが進むシーンで、実は犬の目線だったところなど、唸るかっこよさ。
この“コーラ”という名前の犬、寝相が最高に笑わせてくれます。
笑えるといえば、ソンヒョンがパスタの茹で加減を確かめるために、壁にパスタを投げつけて、くっついたら出来上がりというのも笑えます。
細かいところでは、ソンヒョンがセーターの下から煙草に火をつける仕草もかっこよすぎ!
自分は煙草は吸いませんが、吸われる方は絶対真似したくなるでしょう(笑)
素敵な台詞もたくさん出てきます。
「洗濯をすると過去を忘れられるよ」はさすがにベタ過ぎだろー!とツッコミましたが、「人には隠せないものが3つあるんだって 咳と貧しさと愛」なんかは素敵でした。
一番のお気に入りは、ソンヒョンが失恋に落ち込むウンジュに書いた「誰かを愛してその愛を失った人は 何も失わない人より美しい 元気を出して」
なんといっても、ポストを使ったというアナログ感がこの映画最大の勝因。
ソンヒョンの部屋にはパソコンもあり、2年の時を超えて話せるかは別としてお互いに携帯も持っています。メールという設定にだってできるわけです。
なのにあえて手紙。
今はメールが当たり前で、携帯メールなど送って1分と経たないうちに返事が来るなんてこともあります。
でも、手紙を書いた後返事を待っている間の、ポストを開けそこに手紙を見つけた時の、あの感覚はもうすっかり失われてしまいました。
その感覚を思い出させてくれるだけでも、いいものを観せてもらったと思わせてくれます。
水と光と優しさに包まれた幻想的なイルマーレ、手紙だけがお互いを繋ぐ唯一の手段の二人、懐かしくて心温まる素敵な映画でした。
[原題]시월애
2000/韓国/97分
[監督]イ・ヒョンスン
[出演]イ・ジョンジェ/チョン・ジヒョン/チョ・スンヨン
劇場で初めて予告編を観ました。 https://youtu.be/uXZ9NAx6TIw こりゃやっぱりだめだ…。 まず、肝心の“イルマーレ”の外観が全然ダメ。オリジナル版の方は本当に素敵で、あんな家に住みたいと思った方も少な[…]