『OVER SUMMER』(ウィルソン・イップ)

OVER SUMMER

今回は、前回の『SPL/狼よ静かに死ね』からウィルソン・イップ監督つながりで、『OVER SUMMER』です。

マイク(フランシス・ン)とブライアン(ルイス・クー)の二人の刑事が、強盗犯のアジトの向かいのアパートの一室を借りて張り込みを行う、こう書くと硬派な刑事もののようですが、実際は全然違います。
二人が張り込み中に出会う様々な人々、彼らとの心の触れ合いを描いた、見事な人間ドラマ。

まずは、部屋を借りることになった一人暮らしのおばあちゃん。ちょっとボケが入っていて、二人のことを息子と勘違い。でも、二人はそれに付き合います。
次第に、本物の親子のようになっていく3人。マイクがおばあちゃんに添い寝するシーンなんかいいなぁ。

ブライアンは仕事よりも女の子を追いかけるのに忙しく、ひょんなことから知り合った女子高生が、3人がいるアパートに居着くことになります。

さらに、マイクがたまたま出会ったクリーニング屋の女性店員。彼女はお腹に赤ちゃんがいて、さらにシングルマザーになる決意をしています。
彼女とマイクのやりとりが、一番好きですね~。
「俺が面倒をみるよ」というマイクの言葉を聞いた彼女が、嬉し涙を見られたくなくてぶら下がっているクリーニングの商品の間に隠れるシーンなんか、恋愛映画も真っ青、素晴らしい!

あと、犯人たちのうちの二人が、あることをきっかけに5人がいる部屋にやってきて、一緒に食事をするはめになるシーンがあるんですが、このシーンの緊迫感は凄まじい。
女性陣3人は彼らの正体を知らないため気楽に食べてますが、マイクとブライアンは知っているため、犯人の一人が上着の中に手を入れた時の、一触即発の張り詰めた空気。『ザ・ミッション/非情の掟』の“最後の晩餐”よりも、緊迫感では上じゃないですかね。

OVER SUMMER フランシス・ン

アパートの住人たちとのやりとりもあって、マイクいつの間にか管理組合の理事長になってるし(笑)

ラストに向けての展開は、伏せておいた方がいいでしょう。
特典映像に入っている劇場用予告編は完全にネタばれしてるので(これひどくないですか?)、先に観ないように注意された方がいいと思います。

さて、ウィルソン・イップ監督、『ラヴァーズ&ドラゴン』でも、“ダウンロード”と“ブロードバンド”にはぶっ飛んだものの、セシとフランシス・ンの心の通い合いを描く演出は見事でしたし、『SPL/狼よ静かに死ね』でもリウ・カイチーで泣かせるなど、“心”が描ける監督です。
本作も、刑事ものというのは外見だけで、登場人物の心と心のやりとり、それが染み入ります。

フランシス・ンは金馬奨主演男優賞受賞、おばあちゃんに扮したロー・ランも金像奨主演女優賞受賞、共に納得の名演。
中でも、フランシス・ンが時に見せるふとした笑みは、男でも惚れます。

 

オーバー・サマー~爆裂刑事~ [DVD]

[原題]爆裂刑警
1999/香港/92分
[監督]ウィルソン・イップ
[出演]フランシス・ン/ルイス・クー/ロー・ラン

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