『極楽特急』(エルンスト・ルビッチ)

極楽特急

今回は、この前の『イエスタデイ、ワンスモア』から“泥棒カップル”つながりで『極楽特急』です。
『イエスタデイ、ワンスモア』にイマイチ物足りなさを感じるのも、すでにこの映画を観てしまっているせいでしょう。
ただ、さすがのジョニー・トー監督も、今回ばかりは相手が悪い。

『桃色の店』『ニノチカ』『生きるべきか死ぬべきか』『ウィンダミア夫人の扇』に続いて、エルンスト・ルビッチ第5弾。

ベニスで知り合ったガストン(ハーバート・マーシャル)とリリー(ミリアム・ホプキンス)は、二人とも泥棒。
愛を囁きながらお互いの物を盗む、その粋でお洒落なこと!

極楽特急 ルビッチ

組めばさらに儲かると考えた二人は、パリの大金持ちの未亡人マリエット(ケイ・フランシス)の家に秘書とその助手として入り込む…。

ルビッチ監督自身が最も気に入っているというだけのことはあり、洒落た会話と粋な演出が全編に渡って繰り広げられ、“ルビッチ・タッチ”の魔法をこれでもかというくらい堪能できます。

上に書いた3人以外にも、マリエットに求婚している二人の男、マリエットの家に長年使えてきた男、良い味出している使用人など、いろんな人物が入り乱れて、粋な粋なやりとりを繰り広げます。

『ウィンダミア夫人の扇』では扇の使い方が見事でしたが、今回も小道具の使い方も冴えてます。

バッグ、金庫、時計、ドアなどなど。

まずは、有名な、時計の針の進行だけを映し続ける手法、見事としか言いようがありません。

夕方から始まって真夜中まで、画面はひたすら時計の針だけを映し、ガストンとマリエットの会話がバックに聞こえます。
部屋の中の二人のやりとりは、観る人が100人いれば100通りの映像が頭に浮かんでいることでしょう。
元々この手法は、当時のラブシーンの厳しい規制を逆手にとって考えられたとどこかで読みましたが、いかにもな映像を観せられるより遥かに官能的。

ドアを使った凄すぎる演出も触れないわけにはいかないでしょう。
隣り合わせの部屋、男と女がそれぞれ別々の部屋に入っていきます。カメラは、廊下から二つのドアだけを映します、例によって中は見せません。

まず聞こえるのは男がドアをロックする音、続いて聞こえるのは女がドアをロックする音。
ドアをロックする音の順番だけで、男に部屋に来て欲しいとドアのところで待っていた、男がドアをロックするのを聞いて落胆してドアをロックした、その女心を描く、こんな芸当ができるのは、世界広しといえどもルビッチただ一人でしょう。

お弟子さんビリー・ワイルダーはもちろんのこと、小津安二郎初め世界中の巨匠たちも憧れた(カウリスマキも大好きだと言っていました)、後の映画人が決して到達できないとされる神の領域“ルビッチ・タッチ”、その神髄が凝縮された屈指の名場面でしょう。

話としては、お金目当てで近づいたガストンがマリエットと恋に落ちてしまったことから、リリーが妬いて…というストーリーもちゃんとあるんですが、ルビッチ監督の映画はストーリーはたいして問題ではありません。

次から次へと溢れ出てくる洒落た台詞の数々と、“目”で魅せる楽しさ。

でも、文章でこの素晴らしさを伝えるのは凄く難しい。
とにかくご覧になっていただいて、御自分で酔いしれていただくしかありません。

ベタなラブストーリーの対極にある、大人のラブストーリーとはこれ。
ルビッチ監督の魔法に酔いしれる傑作。

[原題]Trouble in Paradise
1932/アメリカ/82分
[監督]エルンスト・ルビッチ
[出演]ミリアム・ホプキンス/ケイ・フランシス/ハーバート・マーシャル

→泥棒カップル →他の映画の感想も読む

関連記事

ジョニー・トー第24弾。 UPするのは24本目ですが、観るのはこれで31本目。 31本目にして初めて劇場で観ました。 というわけで、東京の方に遅れること1ヶ月、『イエスタデイ、ワンスモア』観て来ました! いくら映画の日と[…]

関連記事

エルンスト・ルビッチ第4弾。前回ですでにルビッチの凄さは確信したので、今回はかなり期待していた分ハードルも高かったと思うんですが、何の心配もありませんでした。そして、当ブログではチャップリンの『キッド』、カウリスマキの『白い花びら』に続いて[…]