今回の1本は、とにかくかっこよくて痺れる作品。
久々に街に戻った流れ者のトム・コーディは、暴走族に誘拐されたかつての恋人でロックの女王であるエレンを救出するため、二人の仲間と敵地に乗り込んでいく…。
冒頭のダイアン・レイン扮するロック歌手エレンのLIVEのシーンで一気に心は鷲掴み。
もうかっこよすぎて言葉になりません。
かっこよすぎるダイアン・レイン、熱狂する観客、そんな中ステージ後方の扉が開き、数人の男たちが入ってきます。しかし、彼等はシルエットしか映りません。
ゆっくりとステージに向かって歩を進める男たち。
そして、まだシルエットのままですが、先頭の男は舞台のエレンに目が釘付け。
エレンのかっこよすぎる歌をバックに、そんな彼女を見つめるシルエットの男。
このシーンは、涙が出るほど(というより出ます)かっこよすぎ!!
可哀相だからでも、感動したからでもなく、かっこよすぎて涙が出る、こんなシーンはそうはありません。
シルエットからやっと表情が露になった男の「今だ!」の一言のもとエレンは誘拐されてしまいます。
姉の「I need you.」の一言に、久々に我が街リッチモンドに舞い戻ったトム。
事情を知った彼は、彼女のマネージャーであるフィッシュ、たまたま出会った軍隊帰りの男勝りの女性マッコイとたった3人で、暴走族の敵地に乗り込んでいきます。
このトムとマッコイの微妙な距離感も秀逸。
トムの姉に言わせればマッコイは「トムと一緒に寝ない初めての子」ですが、トムのことを「好みじゃない」と一言で片付けておきながら、一人寂しくバーでお酒を傾けてたりするわけです。
敵地に乗り込んでいく時には3人だったのが、ロック歌手のファンの女の子や、車を奪ったら乗ってた人たちは歌手だった4人組まで、いつの間にか結構な人数で、みんなで走って逃げるあたりは笑えます。
エレンを奪い返されてトムへの復讐を誓うのが、冒頭のシルエットの男ウィレム・デフォー扮するレイヴン。
顔にインパクトありすぎ!(笑)
警官を通して(ここが笑えます)トムに決闘を申し込んだレイヴンは、プライドの問題でしょう、彼もたった二人の部下を引き連れて今度はトムの街に乗り込んできます。
しかし、レイヴンを逮捕するつもりの警察は、大勢でレイヴンを待ち構えています。
警官はトムには「今夜の電車で町から出て行け。やつが現われたら銃をつきつけ刑務所にブチ込む。明日の朝、まだ町にいたらレイヴンの隣にブチ込むぞ」と言ってあり、警官はレイヴンに「コーディと女は町を出た」と告げます。
完全に勝ったつもりでいた警察ですが、レイヴンがラッパみたいなもので合図すると、「サラリーマン金太郎」でいつもかつての仲間が大量に現われるシーンのように(笑)、銃を持ったレイヴンの部下たちが、警察を上回る人数で現われ、言葉を失う警察。
そこへ、待ってましたとばかり“一人で”現われるトム、痺れます…。
駆けつけるトムの仲間。ここは、『ウエストサイド物語』を思わせる、“対峙する両軍団”という感じです。
先ほどの警官ですが、この警官はかつてトムのことを逮捕したこともある因縁の警官で、いつもトムのことをよく思っていないわけですが、自分たち警察は数で暴走族に勝てないため、トムに「こうなったらあとは好きにやれ」と決闘を許し、一言こう付け加えるところがニクすぎます、「ブチのめせ」。
ここで、両軍団が入り乱れての乱闘にならないところがこの映画の素晴らしいところで、警察や仲間が皆見守る中、決闘はあくまでもトムとレイヴンの一対一。
武器は大きな鉄製のハンマー。このシーンのド迫力!
死闘の末、レイヴンが武器を落とし、その気になればハンマーで一撃で倒せるところを、トムも自らハンマーを捨てます。
そして、今度は素手での死闘へ…。
ラストはまたまたエレンの痺れまくるロックの熱唱。
前座には先ほどの4人組。
再び完全に心を通わせたトムとエレンですが、“流れ者”トムは、「お前には歌があるが、おれは衣装ケースを運ぶ柄じゃない。必要なときは呼んでくれ」と、涙がちょちょぎれる(死語ですが)ような決め台詞を吐き、去っていきます。
観客を熱狂させるエレンを、冒頭にレイヴンが入ってきた扉のところで、一人見つめるトム。
そんな彼に、エレンも一度だけ視線を送ります。
その視線を受け止めた瞬間去っていくトム…。
一人街に繰り出すトムのもとへ一台の車が。運転しているのは例のマッコイ。
その車に乗ったトムが「口説くチャンスだな」と言うと、すかさず、「前に言ったろ、好みじゃない」。
そして、エレンの歌をバックに去っていく二人を乗せた車…。
難しいところは何一つない単純明快なストーリー、これまたわかりやす過ぎる勧善懲悪、存在感あり過ぎの脇役二人エイミー・マディガンとウィレム・デフォー。
オープニングとラストのこれ以上ないくらいかっこいいダイアン・レインのライブのステージ(でもさすがに歌は吹き替えらしいです)、豪雨の中の突然のキスシーン、“ロックンロールの寓話”というサブタイトル。
さらに、マイケル・パレ扮するトムの男の美学、これには『ワイルドバンチ』のサム・ペキンパー、『男たちの挽歌』のジョン・ウーに続いて、ウォルター・ヒルもその仲間入りでしょう。
そして、文句なしのラストシーン。
もう何も言うことはありません。完璧。
惜しむらくは、あのライブのステージを、映画館の大画面で観たかった…。リバイバル上映しないかなぁ。
こんなに素晴らしい映画を知らないまま終わるところだったのを、存在を教えてくれたのは、前にも当ブログで『情婦』についての「これほどアッといわせた映画はヒッチコックにも例がない」というコメントを紹介した双葉十三郎氏。
彼の『外国映画ぼくの500本』という本は、映画好きにはまさに必読書です。
ちなみに、氏のこの映画についての締めの言葉は「現代に帰ってきたシェ―ン」。
まさにたった一言でこの映画を表していますね、さすがにプロは違います。
日を置いてではなく立て続けに何度でも観たい、痺れまくって燃えまくって泣ける、至福のそして怒涛の94分。
必見。
[原題]Streets of Fire
1984/アメリカ/94分
[監督]ウォルター・ヒル
[音楽]ライ・クーダー
[出演]マイケル・パレ/ダイアン・レイン/ウィレム・デフォー/リック・モラニス/エイミー・マディガン/ビル・パクストン/デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ
【関連記事】
●『シェーン』(ジョージ・スティーヴンス)
●愛すべき名場面BEST10
●愛すべきオープニング名場面BEST10
●「レンタルビデオ屋始めました」バトン vol.2
●『リベンジ・ガンショット 非情の追跡者』(ティモシー・ウッドワード・Jr.)