『白い花びら』(アキ・カウリスマキ)

白い花びら

カウリスマキ第7弾。
1999年のこの作品、21世紀を目前にしてなんとモノクロのサイレント映画。

とはいっても普段から台詞が極端に少ないカウリスマキの映画、別段違和感はありません。
台詞がなくなった分(字幕で出る台詞はあります)、いつも以上に“目”で全てをわからせてくれます。

並んで置かれたヘルメットが夫婦の仲の良さを、かすかに滲ませたうすら笑いがその人の人となりを、手料理から電子レンジへの変化が心境の変化を、横に妻がいない目覚めが男の状況を。

そして、いつも台詞以上に多くを語るのがカウリスマキ映画の音楽。
この映画、どれもこの映画のために書かれたオリジナル曲のようですが、今までに観たカウリスマキ映画の中でも一番というくらい音楽が抜群!
でも…。

あまりにも素晴らしくて、わかりやすくて、そして全編に渡って流れるので、いつものカウリスマキ映画のあの絶妙の間(ま)が失われてしまっているのは否めません。

基本にある静寂と、ぽつりと語られる台詞、そして台詞以上に語る音楽、静寂と音の対比があの絶妙な間を生んでいたのに、ひたすら流れ続ける素晴らしい音楽が、その間を消してしまっているのではないでしょうか。
考えてみれば、この映画の登場人物たちは、今までの誰よりも表情豊かだったような気がします。

白い花びら カウリスマキ

モノクロのサイレント、一見一番静かなようで実は一番饒舌なこの作品。
ある意味斬新ではありますが、カウリスマキのあの間のファンにとっては、う~ん…となってしまいます。

それでも、いつものメンバーに会えるのは嬉しい限り。
カティ・オウティネンを筆頭に、『過去のない男』の警備員サカリ・クオスマネン、『ラヴィ・ド・ボエーム』のマルセルことアンドレ・ウィルムス、“過去のない男”マルック・ペルトラ、そして必ずといっていいほど見かけるエスコ・ニッカリとエリナ・サロ。
これだけメンバーが変わらないのは、ほんとに固い絆で結ばれているからなんでしょうね。

中でも一番の見所はエリナ・サロの歌。彼女が歌う「サクランボの実る頃」には聞き入ってしまいました。

珍しくかなり批判的に書きましたが、カウリスマキ自身「シネマのエッセンスは言葉のない世界だから、そこに回帰したかった」と語っている一方で、このストーリーは「カラー向き」と、サイレントにしたのは「ウィルムスはフィンランド語を話せないから」とも語っており、ほんとはいつものスタイルでやりたかったんでしょうか。
ぜひいつものスタイルでも観てみたかったです。

最後に一つ、ユハがいよいよ街に向かう時、犬を預けます。
そして、バスに乗って街に向かうわけですが、なんとバスの後ろから犬が走って追いかけてくるではありませんか!
カウリスマキもこういうベタなことをやるんだなぁと(笑)

 

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[原題]Juha
1999/フィンランド/78分
[監督]アキ・カウリスマキ
[撮影]ティモ・サルミネン
[出演]サカリ・クオスマネン/カティ・オウティネン/アンドレ・ウィルムス

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