『あるいは裏切りという名の犬』(オリヴィエ・マルシャル)

あるいは裏切りという名の犬

かつて親友だった

同じ女を愛した

今はただ敵と呼ぶのか…

元警察官の監督・脚本家が描く、実話に基づく(そのままの実話ではない)本場フランスのフィルム・ノワール、主演がダニエル・オートゥイユにジェラール・ドパルデューとくれば、これを観ずして何を観るというわけで、『ヴェラ・ドレイク』以来久々に、名演小劇場に行って来ました。

冒頭のキャッチコピー、いいですよね~。

次期警視庁長官の最短距離にいる二人の男。

権力への欲望はなく、部下を大切にし、仲間からの信頼が厚いレオ(ダニエル・オートゥイユ)。

権力への欲望を隠そうともせず、目的のためには手段を選ばないドニ(ジェラール・ドパルデュー)。

現長官が後継者に選んだのはレオだった。
それに納得がいかないドニは…。

あるいは裏切りという名の犬ダニエル・オートゥイユ ジェラール・ドパルデュー

こう書くと、黒社会から警察に舞台が変わっただけで、トーさんの『エレクション』?となりますが、もう一つ話が絡んできます。

かつて親友だった二人は同じ女を愛し、女は今はレオの妻。
いつしか二人は疎遠になり、警察内でも二人がそれぞれ率いるチームは犬猿の仲。

そんな過去を持つドニのレオに対する思い、これがもう一つの大きな軸に…。

ならなきゃいけないんですが、この部分が弱い。
少なくとも二人が親友だったと感じさせるものはないですし、ハリウッドみたいに説明過多になる必要は全くありませんが、ここが弱いために、いまいち深みに欠けます。
いつもは長すぎると文句を言ってますが、今回は110分なので、あと10分くらい使って掘り下げて欲しかった。

ただ、さっき書いたのだけ読むとレオが善人、ドニが悪人みたいですが、決してそんな単純ではないところはさすがで、レオの方もグレーゾーンに完全に足を踏み入れています。
そんな生き方が、思わぬ事態へと繋がっていくんですが…。

あと、主演の名優二人が素晴らしいのは言うまでもないとして、脇に至るまで、みんな役者が素晴らしい。

レオの知り合いの娼婦役でミレーヌ・ドモンジョが貫禄を見せつけ、レオの同僚エディ、部下のティティ、ドニの部下の女性エヴ、みんなほんとに上手い。

先ほどの掘り下げの弱さと、ラストへの感じがやや弱いので、傑作!とまではいきませんが、十分に面白く、何より雰囲気が素晴らしい。

冒頭の夜のシーンで見られる、濡れた舗道、浮かび上がる街灯の灯り、これだけでノワールとしての質は保証されたようなもの。
最近はこの“濡れた舗道”を美しく撮れる人がなかなかいないですからね。

ちなみにこの映画、レオ=ロバート・デニーロ、ドニ=ジョージ・クルーニーでリメイクが決まっています。
またひどいものができるんでしょうか。
どうせやるなら配役が反対だと思うんですが…。

最後に、原題の『36 Quai des Orfèvres』(オルフェーヴル河岸36)はパリ警視庁の番地名。
酷い邦題が多い昨今にあっては、久々に良い邦題ですね。

 

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[原題]36 Quai des Orfèvres
2004/フランス/110分
[監督・脚本]オリヴィエ・マルシャル
[出演]ダニエル・オートゥイユ/ジェラール・ドパルデュー/アンドレ・デュソリエ/ヴァレリア・ゴリノ/ロシュディ・ゼム/ダニエル・デュヴァル/ミレーヌ・ドモンジョ/フランシス・ルノー/カトリーヌ・マルシャル/オリヴィエ・マルシャル

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