『マッチ工場の少女』(アキ・カウリスマキ)

マッチ工場の少女

前回の『愛しのタチアナ』に続いて、アキ・カウリスマキ第5弾。

この作品、「敗者3部作」のトリを飾る、カウリスマキの名を一躍有名にした作品。

ただ、『過去のない男』や『浮き雲』ほどではないにしても、他の映画にも少なからず希望がありました。
しかし、この映画は最後まで救いがありません。
というわけで、カウリスマキのリズムを受けつけない方には最悪の1本かもしれません。

冒頭、古びたマッチ工場の製造ラインが延々と映ります。
マッチはこうやってできるんだ!と納得している場合ではありません。ほんとにいつまで続くんだというくらい続きます。

そんな工場で働く女性イリス、扮するのは“いつもの”カティ・オウティネン。
“少女”がカティ・オウティネンという時点でこの映画、ただ者ではありません(笑)

マッチ工場の少女 アキ・カウリスマキ

いつもの無表情で黙々と仕事をこなすイリス、仕事が終わっても、市電に乗って、食材を買って、家に帰るだけ。
家には母親(こちらもカウリスマキ映画の常連エリナ・サロ)とその愛人。
イリスの稼ぎに頼り切っているどうしようもない二人。

ある夜、イリスはダンスホールに出掛けます。
他の女性たちと共に、壁際の椅子に座って男から声をかけられるのを待つイリス。

一人、また一人と誘われていていく女性たち。
しかし、最後までイリスに声をかける男は現われません。一人取り残されるイリス。

壁にうっすらと映る男女の踊る姿、足元には増え続けるレモネードの空き瓶。
一切の台詞なしで、“目”で全てをわからせるカウリスマキ演出絶好調。

あんなダサダサな服じゃやっぱり声もかけてもらえないと、給料日の帰り道、派手な赤いドレスを買うイリス。
愛人の男には「売春婦」と罵られ、母親には「返品してきな」と言われようと、イリスはそのドレスを来てでかけます。

ドレスのおかげか、今度は声をかけてくれる男性が!
そして、一夜を共にする二人。

翌日、今までと同じように仕事をするイリス。でも、その表情にはわずかに笑みが。
わかりきった台詞も、大袈裟な表情もなくても、わずかな表情の変化だけでイリスの心境の変化を表現するあたり、ほんとに巧すぎます!
「左眉一つで演技できなければダメ」というほど演技にはうるさいカウリスマキ、それに完璧に応えるカティ・オウティネン。

妊娠してしまったイリス、所詮一夜の遊びでしかなかった男からは、「始末してくれ」という一言と小切手だけが。

ここからが凄い。

向かった先は薬局。
ネズミ捕りの薬のサイズ大を注文したイリス。店員とのやりとりが絶品。

「効き目はどう?」
「イチコロ」
「すてき」

ここからの展開は観てのお楽しみということで。

あと、カウリスマキといえば何といっても音楽ですが、今回は『ラヴィ・ド・ボエーム』の「雪の降る街を」や『真夜中の虹』の「Over the Rainbow」のような有名曲はないものの、いつものように音楽が台詞の代わりに多くを語ります。
中でも今回はロックが多いんですが、どれも目を覆いたくなるような歌詞(笑)

中でも一番の傑作は、誕生日なのに一人でケーキを食べるイリスのバックに流れるこの歌詞。
「お前はブスだと 他の奴らは言うけどなァ
 おれは構わねえ ああ 好きだよ ベイビー」
最高です(笑)

今まで観たカウリスマキ映画の中では間違いなく一番悲惨な話。
ただ、ここまでやってくれると、悲惨を通り越して笑うしかありません。
ブラック・ユーモアの極致。

そして、彼女以外にこの役をやれる女優はいないでしょう。
カウリスマキ映画西の横綱カティ・オウティネン、最強のハマリ役。

 

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[原題]Tulitikkutehtaan tyttö
1990/フィンランド/70分
[監督]アキ・カウリスマキ
[撮影]ティモ・サルミネン
[出演]カティ・オウティネン/エリナ・サロ/エスコ・ニッカリ

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