『リスボン特急』(ジャン=ピエール・メルヴィル)

リスボン特急

以前DVD化の話を取り上げましたが、ついに観れました!
今回は、メルヴィルの遺作『リスボン特急』です。

最初に一つ問題を書いておくと、コールマン(アラン・ドロン)とシモン(リチャード・クレンナ)の関係についての描写が浅い。
もちろん説明過多になる必要は全くありませんが、ここが弱いため、二人の“対決”の哀しさがいまいち弱い。

これは、『あるいは裏切りという名の犬』と同じ欠点ですね。
“男2女1”→“男同士の対決”をやるなら、それぞれの女との関係以上に、男同士の関係をもう少し掘り下げないと。
シモンの経営するクラブでの、目だけでの3人のやりとりなんかは流石ですが。

しかし、今回の“男2女1”は、女がカトリーヌ・ドヌーヴということで、彼女の存在感によって救われている部分はあります。

このカトリーヌ・ドヌーヴですが、最強のシーンが一つ。
最近流行りのナース姿。(え?流行ってません?)

間違ったベクトルでの双璧は、『ダークナイト』のヒース・レジャーと『スリ』のロー・ウィンチョンでしょう。
ですが、そろそろ正しいベクトルでの最高峰も拝みたいところ。

そこへ、きました、最強の女神が。

リスボン特急 カトリーヌ・ドヌーヴ

1R2.7秒TKO。

冷徹に葬られたシモンの仲間も、必ずや天国に直行でしょう(笑)

話がだいぶそれてきましたので、本筋に戻ります。

映像美が素晴らしいこの映画。
世には“キタノブルー”なんてのもありますが、ブルートーンといえば何といってもメルヴィルの十八番。
“青”の美しさは、『サムライ』や『仁義』よりも上ではないでしょうか。

そして、オープニングから目が画面に釘付けになる、雨、波、風の美しさ。

さらに、シャンゼリゼ通りの街灯がいっせいに灯るシーンの、“橙”。

フィルム・ノワールの出来の物差しの一つ、“濡れた舗道”と“街灯の灯り”、共に最高峰。

リスボン特急 メルヴィル

さて、映画としてのクライマックスは、ヘリコプターから列車に移っての麻薬強奪シーンでしょう。

メルヴィルには似合わない、ハリウッド顔負けの派手なシーンです。
一目見てわかるミニチュアですが…。

ヘリから列車に降下するのは、トラウトマン大佐!
ランボーを鍛えた彼なら、こんなの朝飯前ですね。

すいません、またまた話がそれました…。
トラウトマン大佐ではなく、リチャード・クレンナ扮する強盗グループのリーダー、シモンです。

ミニチュアはしょぼいんですが、列車に移ってからの描写はむちゃくちゃ丁寧。
服を着替えたり、磁石を使ってコンパートメントの鍵を開けたり、煙草を吸って他の乗客をごまかしたり、ほぼリアルタイムでの演出で、最近のハリウッドのアクション映画のテンポと比べたら、ありえないほどの丁寧さ。

リスボン特急 メルヴィル

映画はその後、予想通りの決着を迎えますが、この映画がいいのは、決着がついたその後。

以下、ネタバレ全開。

未見の方は、ご注意下さい。

この前、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の、“こんな時にかける言葉なんてない、それでもただ側にいてあげたい男と、その思いを無言で受け止める女”というシーンについて書きましたが、流石はメルヴィル、当然こちらも一言も喋りませんが、もう一段洒落がきいてますね~。

決着直後、「早く、撃ち過ぎたとは思わんか?」と、言わなくてもいい一言を言ってしまった部下。
言った瞬間“しまった!”と思ったでしょうが、もう遅い。

そんなことは、言われなくたって痛いほどわかっていること。
でも、今さら取り返しはつかない。

相手は銃なんて持っていなかった。
そんなシモンの思いを信じることができず、早まって撃ってしまったコールマン。

いつものように、街へと巡回に繰り出すコールマンと部下。

先に、言わなくてもいい一言を言ってしまったため、二人の間に流れる空気は当然のように重い。

何の力にもなれないことはわかっていても、今さらかける言葉なんかなくても、それでも、“何かしてあげたい”。

無言でガムを差し出す部下。
微かに首を振って、その気持ちだけ受け止るコールマン。

これが、煙草じゃなくてガムなところがニクい。

リスボン特急 アラン・ドロン

さらにその後、車に無線電話がかかってきます。

この描写は序盤から結構あって、コールマンは署長なのに自ら運転するので、助手席にいる部下が「8号車、代わります」と言ってコールマンに渡すのが毎度のこと。
この描写が、今思えばしつこいくらいあったわけですが、このためだったんですね。

いつもならすぐに取る電話を、なかなか取らない部下。
コールマンの方をちらっと見た後、結局最後まで電話を取りません。
その横で、無言で運転を続けるコールマン。

もう何年も、ひょっとしたら十数年もコンビを組んできた二人でしょう。
何千回と行われてきたであろう「8号車、代わります」というやりとり、それが、初めて取られることのなかった電話。
何もできない部下の、せめてもの思い。

先ほど書いたような不満もあり、ここまではいまいち乗り切れない映画でしたが、最後の最後にきましたね。

というわけで、傑作!とまではいきませんが、最初と最後は文句なしに素晴らしいですし、何よりも“メルヴィルブルー”は必見です。

[原題]Un flic
1972/フランス/100分
[監督・脚本]ジャン=ピエール・メルヴィル
[出演]アラン・ドロン/リチャード・クレンナ/カトリーヌ・ドヌーヴ

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