『哀しき獣』(ナ・ホンジン)

哀しき獣

先ほどTwitterでの第一声でもつぶやきましたが、まずは、長い…。
明らかに必要ないシーンはさすがにないですが、もっともっと削れるはず。
『アジョシ』の何が素晴らしかったかって、感想でも書きましたが、例の茶碗キャッチ、わずか数秒でテシクとソミのこれまでを語りきりましたからね。

そして、むちゃくちゃ面白いですし、TV局主導のこの手の邦画なんかとは天と地の差なことは大前提で、それでもハイレベルでいくつか注文を。

一番言いたいのは、あんなにカメラをガチャガチャ動かす必要なんて全然ない。
せっかく面構えも立ち振る舞いも素晴らしい役者が揃っているのに、カメラがみんな台無しにしています。

次に、今や韓国映画の十八番とも言える暴力描写。
これも、「必然の暴力」と「暴力のための暴力」がありますが、後者の感じで、とりあえず暴力描写はたくさん入れておかなきゃみたいに思えます。

と文句を先に言いましたが、そんな描写を、しかも必要以上に動かすカメラで入れなくても、素晴らしいシーンはいくらでもあるんですよね。
特に、「事件」が起きるまでの前半はほんとに素晴らしい。

自治州の街並み、部屋の中の描写、暮らしている人々の面構え、雀荘の雰囲気。
命の危険が待っていようとも、それでも、ここにいたらいつまで経っても何も変らない、海を渡るしかない、どうなるかわからないけど、此処じゃない何処かへ。
その空気感は、完璧に近い。

哀しき獣 ハ・ジョンウ

さらに、“下調べ”のシーンも素晴らしい。
『PTU』を思わせる、ビルを上がっていくあの明かり!

そんな前半と比べると、色々と文句も言いたくなる後半ですが、そんな不満を全て吹き飛ばしてしまうと言ってもいいのが、ミョン社長!
牛骨での殺戮シーンなんかもうスタンディングオベーションもの!銃やナイフなんてもう古い、漢なら斧と牛骨ですよ!
アントン・シガー級の大傑作キャラ。

哀しき獣 ミョン社長

もう1つ素晴らしかったのが、テウォン社長の愛人の脱ぎっぷり!
何も脱げばいいってものでもありませんが、実際なら絶対に何も身につけていないような場面で何かを着ていることが多々ありますが、そんな中途半端なことするくらいなら初めからそんなシーン入れるなよという話で、その点、役者さんも含め、素晴らしかったですね。

そして、終わり方はこれまた素晴らしかったですね~。
やっぱり題名は『黄海』でいくべきだったというのを痛感する、見事な終わり方。

最後に、これは『チェイサー』や『アジョシ』とも共通しますが、この手の韓国映画の何が素晴らしいかって、役者の面構えですよね。
主役はもちろん、脇に至るまで、適材適所、インパクトありすぎ、みんないい面構えしてるよなぁ。

『チェイサー』の時も今回も、ナ・ホンジン監督を絶賛するような言葉をよく見かけますが、先ほど書きましたように、演出にはいろいろ注文もあるので、役者さんたちに最大限の拍手を。
『チェイサー』もこの映画も、監督というよりも、主演の二人の存在感によるところが大きい。

というわけで、ハ・ジョンウも素晴らしいですが、キム・ユンソク演じる映画史上屈指の最強キャラ、ミョン社長、彼を大スクリーンで観るためだけでもぜひ映画館へ!

 

哀しき獣 ディレクターズ・エディション [Blu-ray]哀しき獣 ディレクターズ・エディション [Blu-ray]

[原題]황해
2010/韓国/140分
[監督・脚本]ナ・ホンジン
[出演]ハ・ジョンウ/キム・ユンソク/チョ・ソンハ/チョン・マンシク

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