クリント・イーストウッド第9弾。
たるみきった米軍海兵隊偵察小隊に、鬼軍曹トーマス・ハイウェイが帰ってきた!
というわけで、鬼軍曹がもちろんイーストウッド。
原隊に戻ってきたイーストウッド、心が通じるのは昔共に戦った曹長だけ。
若い隊員たちはまったくやる気がなく、彼より年下の上官たちは実戦経験ゼロの“書類バカ”。
上官からは当然邪魔者扱いされ、やる気のない隊員たちからも煙たがられます。
しかしイーストウッドがへこたれるなどということがあるはずもなく、上官なんかお構いなし、部下には力づくで厳しい訓練を課します。
それでも、ただの厳しいだけの“強い”軍曹というだけでなく、“弱み”を持っているところがいいんです。
彼や曹長が上官から嘲るように呼ばれた“011”という呼び名。
“勝利ゼロ 朝鮮で引き分け!敗北― ベトナム”
0勝1分1敗。
そうです、いくら朝鮮戦争で名誉勲章をもらおうと、実戦での勝利がないことが一番の心の傷。そして勝利を求めては戦地へ志願し、妻とも離婚。そのためか酒にも溺れ、酔っては喧嘩を買って問題を起こしてばかり。
さすがに懲りたのか雑誌で女性との接し方を研究するあたり、憎めないいいキャラです。
このように、いろいろと問題はあるものの、実戦、しかも接近戦となると、名誉勲章をもらったことからも、その腕は超一流。
部下をしごく訓練でも、若い部下たちが長距離走で息を切らす中、一人平然とこなすなど、口だけでなくいまだにバリバリの現役。
仕方なく従ってきた若者たちには、たった一つの希望がありました。
それは営倉入りになっている巨漢のスウェードという仲間。
彼が出てくれば力で軍曹に勝てるため、もはや言うことを聞かずまたあのだらけた生活に戻れると思っているのです。
そしてスウェードが出てきたその日、整列だ!の命令も無視し、いざスウェードにこてんぱんに軍曹をやっつけてもらおうとする部下たち。
しかししかし、『ペイルライダー』であのリチャード・キールにも勝ったイーストウッドが負けるはずもなく(笑)、当然のように圧勝。
顔色を失う部下たち。
ここでのスウェードとのやりとりがいい。
「また営倉ですね」
「いや、立派な海兵にしてやる」
その言葉を聞いた時のスウェードの表情がたまりません。
もはや逆らう余地のなくなった部下たち。
まだ心底心服してはいないものの、少しずつ、少しずつ軍曹と部下の心が通じ合っていきます。
“書類バカ”の一人である直属の上司である中尉も、少しずつ軍曹に感化されていきます。
そして迎えた実戦訓練の日、イーストウッド率いる偵察小隊は、大尉(書類バカ筆頭)率いる第一小隊のやられ役。
イーストウッドがやってくる前は、待ち伏せの位置もあらかじめ決められており、偵察小隊はただやられるだけ。彼らの死ぬ芝居が大尉はお気に入り。
今回もどうせやられるだけとやる気のない部下たちに、“勝つんだ!”と軍曹。
部下たちにしてみれば“えぇ~っ!”。明らかに命令違反です。
それでも、元々一癖も二癖もある連中です。負けるのがいい気がするわけもなく、軍曹の命令のもと、予定外の地点で待ち伏せ、見事に第一小隊をやっつけます。
沸き上がる偵察小隊。さらに心は一つになっていきます。
厳しい訓練の中、軍曹はいざ本当に実戦になった時に役に立つことを若者たちに教え込ませます。
例えば、長距離走中に突如撃ち込んだ実弾。
これまたもちろん規則違反なんですが、その撃ち込んだ弾は実は敵の主要小銃。
そして若者たちに言います。
「AK47だ、敵の主要小銃だ。音に特徴がある。覚えとけ」
相変わらず大尉らと衝突を繰り返しながら、続く訓練の日々。
何一つ知らなかった若者たちが、大尉直属の第一小隊にも負けない立派な海兵隊員へと姿を変えていきます。
そしてついに下った出撃命令。
任務はグラナダからの米国民間人の救出。
まさか本当に実戦に赴くことになるとは思ってもいなかった若者たち、当然その顔には恐怖も見えますが、十分に“戦う男”の顔つきをしています。
ヘリから海へ飛び降り、海岸線から上陸する偵察小隊。
徐々に進みながら息を潜める中、突如撃ち込まれる敵の銃弾。
いつ死ぬかわからない場所に来てしまったことに恐怖を覚える若者たち。
しかし一人が言います。
「AK47、音に特徴がある」
思わずニヤリとなる名シーン。
逞しくなった若者たち、そしてもはや“書類バカ”ではなくなった中尉と共に、軍曹はついに実戦での勝利をつかみ取ることができるのか…。
“過去の屈辱と現在の復讐”、イーストウッド作品で一貫して描かれてきたテーマが見事に出た作品。
まだ書類バカだった頃の中尉に「出身大学は?」と聞かれた軍曹は答えます、「ハートブレイク・リッジ」。
この時点ではまだ意味がわからないのですが、わかった時には痺れます…。
戦争についての考え方がどうだとか、そんな難しいことはどうでもよくて、典型的な憎まれ役相手にスッキリ決めてくれるイーストウッド、それを単純に楽しめばいい映画。
そして、訓練シーンよりも、戦闘シーンよりも、小さなアメリカ国旗を振る白いドレス姿のマーシャ・メイソン、その姿を見つけかすかに微笑むイーストウッド、こんなシーンこそがイーストウッド映画の真骨頂。
[原題]Heartbreak Ridge
1986/アメリカ/130分
[監督]クリント・イーストウッド
[出演]クリント・イーストウッド/マーシャ・メイソン/マリオ・ヴァン・ピープルズ
今回は、イーストウッド入魂の西部劇。 『シェーン』のリメイクなどと言われていて、確かにそのままのシーンもありますが、やはり同じイーストウッドの『荒野のストレンジャー』のリメイクでしょう。 オープニング、荒野を馬で駆ける一団と、のどか[…]
Twitterでのつぶやきをまとめておきます。 『トップガン マーヴェリック』、最高すぎて涙がちょちょぎれた。なんだよこれ、凄すぎるだろ…。 https://pic.twitter.com/f3mcRGTupS 前作完コピのオープニ[…]