『ギャング・オブ・ニューヨーク』(マーティン・スコセッシ)

ギャング・オブ・ニューヨーク

1846年、アイルランド移民の子アムステルダムは、敵対するギャングとの抗争で目の前で父親を殺され、自らも刑務所に投獄される。
15年後、再びニューヨークに戻った彼は、素性を隠して仇敵ビルに近づくが…。

素晴らしいシーンはたくさんありますが、冒頭のギャング同士の決闘のシーンですでに心は鷲掴み。
リーアム・ニーソン扮するヴァロン神父が率いるデッド・ラビッツが、ダニエル・デイ=ルイス扮すビル・ザ・ブッチャー(アブドーラ・ザ・ブッチャーではありません念のため)率いるネイティブ・アメリカンズとの決闘に向かうシーン。

決闘シーン自体も凄まじいですが、そこに向かうまでの高揚感がたまりません。
ヴァロン神父を先頭にいざ闘いの場へと歩を進めて行く男たち、そんな彼らを見送る、武器などを作っている仲間たち(ここでちらっと映るだけの男たちが後々もっと大きな意味を持って登場してきます)、そしてヴァロン神父の傍らには、息子アムステルダム。

決戦に向かう彼らの気持ちだけでなく、観ているこちらの気持ちまで高めてしまう音楽。音楽は、このシーンに限らず全編に渡って素晴らしいです。
アムステルダム初め主人公側として描かれている方がアイルランド移民なため、音楽もアイリッシュ系。ケルト音楽好きにはたまりません。

高揚感も頂点に達した頃、彼らは建物から出て、白銀の、決戦の地“ファイブ・ポインツ”へ。
そこで、一転先ほどまでとは打って変わって完全な静寂。この時点ですでに「つかみはOK」という感じです。

ギャング・オブ・ニューヨーク リーアム・ニーソン

ブッチャーがアムステルダムに、ヴァロン神父のことを尊敬していることを語り出すシーンも外せないでしょう。
親を目の前で殺され、復讐しか頭にないアムステルダム。
しかし、その憎き敵が殺した相手のことを誰よりも尊敬し、彼ヴァロン神父だけが、己が殺してきた多くの男たちの中で、唯一“記憶に値する”人間だったと語り始めたのです。

憎き敵が実は“名誉”を大切にする男だと知った時、憎しみと同時に尊敬の念もまた生まれ、何ともいえない涙を流すのです。このシーンにはほんとに痺れます。

そして、物語りも終盤、ヴァロン神父とブッチャーが対峙した決戦の地“ファイブ・ポインツ”で、再びアムステルダムとブッチャーは対峙することに。

決戦の朝、共に神に祈るアムステルダムとブッチャー。
そんな緊迫した朝にも、裕福な上流階級の人々の家では、食事前の神への感謝の祈りが捧げられていました。
この別々に神に祈る三者を交互に映す場面は見事でした。

今回も、決戦に向かうまでの高揚感は相変わらず最高です。さらに、彼らの抗争に加え、300ドル払えば徴兵免除という制度に反対する暴動も沸点に達し、街の熱気と緊張感は最高潮に。

しかし、一人一人の、憎しみ、復讐、名誉、そして反発などなど、そんなものを嘲け笑うかのように、彼らに降り注いだのは、暴動を鎮圧するために政府が投入した、ゲティスバーグで勝利を収めたばかりの軍隊による有無を言わせぬ火力でした。
その圧倒的火力の前では、自分たちの抗争など虫けらほどの価値もないということを思い知らされるアムステルダムとブッチャー…。

そんな物語を彩る俳優陣も豪華。

まずは、なんといってもダニエル・デイ=ルイスでしょう。
5年前の『ボクサー』出演依頼、『恋におちたシェイクスピア』も『ロード・オブ・ザ・リング』も蹴って、フィレンツェで靴職人として修行をしていた彼ですが、やっと映画界に戻ってきてくれました。
ディカプリオにとっても、自らはランボーに扮した『太陽と月に背いて』で、相手役のヴェルレーヌ役に彼を熱望しながら叶わなかったということもあり、念願の共演。

ギャング・オブ・ニューヨーク レオナルド・ディカプリオ ダニエル・デイ=ルイス

そのディカプリオですが、『ボーイズ・ライフ』でデ・ニーロに見出されたことは有名な話ですが、スコセッシ監督に彼を推薦したのもやはりデ・ニーロのようです。
スコセッシ自身も『ギルバート・グレイプ』や『太陽と月に背いて』の頃のディカプリオの演技を絶賛していますが、自分も『タイタニック』の彼よりもあの頃の彼の方が遥かに好きです。当ブログでも『ギルバート・グレイプ』は紹介しています。

あの頃の演技はほんとにずば抜けていて、“アクター”として頂点に立つはずだったディカプリオ、しかしその前に『タイタニック』によって“スター”として頂点に立ってしまった彼ですが、ほんの少し“アクター”ディカプリオが帰ってきました。
演技力はずば抜けているだけに、これからもその演技力が生かせる作品選びをしてほしいです。

もう一人は、大好きなキャメロン・ディアス。
『メリーに首ったけ』や『チャーリーズ・エンジェル』のような笑わせて楽しませてくれる作品に出たかと思えば、『姉のいた夏、いない夏』のようにシリアスな演技もしっかりできる彼女。
そんな彼女の一番の魅力は、溢れんばかりのエネルギー、そして“生命力”。
本作でも、困難な状況の中、したたかに、力強く生き抜くという、まさにハマリ役です。

あと凄いのは、CG全盛のこの時代にCGをほとんど使わず、あのチネ・チッタ(イタリアのローマにある大スタジオ)で、当時のニューヨークを完全に再現してしまったということ。
実際にすべてを再現している分、伝わってくる“重み”が違います。

さらに、一番びっくりだったのは、多少史実とは登場時期などがずれているものの、デッド・ラビッツもネイティブ・アメリカンズも、さらにはブッチャーやモンクまですべて実在の人物なり組織だということ。

今や世界の超大国となったアメリカですが、たった150年前には、このような歴史が存在したということ。
歴史の教科書では1ページも書いてあればいいところの南北戦争。
しかし、そんな表舞台の裏で、こんなにも苛酷で残忍で、それでいて魅力的な闘いを繰り広げていた男たち。
まだまだ知らない世界は山ほどありそうです。

最後に、ラストに現代のニューヨークの映像(今は無きツインタワーも)が出てきますし、エンドクレジットでU2の「The Hands That Built America」が終わった後しばらくクレジットだけが流れ続ける時に、よく聞くと聞こえるのは現在のニューヨークの街角の雑音だと思うんですが(ひょっとしたら違うかもしれません)、マンハッタンのリトルイタリーで育ち、傑作『タクシードライバー』をはじめニューヨークの映画を撮り続けてきたスコセッシ監督の、ニューヨークへの思いに何よりもぐっとくるものがありました。

 

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[原題]Gangs of New York
2002/アメリカ/160分
[監督]マーティン・スコセッシ
[音楽]エルマー・バーンスタイン/ハワード・ショア
[主題歌]U2
[出演]レオナルド・ディカプリオ/ダニエル・デイ=ルイス/キャメロン・ディアス/リーアム・ニーソン

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