『ブレッド&ローズ』(ケン・ローチ)

ブレッド&ローズ

米国に不法入国したメキシコ人のマヤ。
ロスで清掃員として働き出したものの、会社から冷遇される。
労働組合活動家のサムと出会った彼女は、待遇の改善に乗り出すが…。

前に『ケス』の時に「底辺にいる人々の日常」と書きましたが、今回の主人公は、低賃金で酷使される名もなき清掃員たち。
給料をピンハネされるわ、保険はついていないわ、ちょっとしたことですぐクビを切られるわで、とにかく劣悪な環境で働かされる人たち。

しかも、映画だからと誇張して描かれているわけではなく、2000年に実際に労働者たちが勝利した際の再現なのです。
同じようなことは、今この瞬間にも全米中で繰り広げられています。

いつものケン・ローチ作品のように、実生活で登場人物と同じ経験をしたことのある素人を使っているため、清掃員のうちの何人かは、実際にロスで20年近く働いている本物の清掃員たちです。
ここらへんは、ほんとにリアリティーのレベルが違います。

ブレッド&ローズ ケン・ローチ

印象的なシーンはいくつもありましたが、特筆すべきは3つ。

まずは、この映画は姉妹の絆の物語でもあるわけですが、仲間を裏切った姉に対して「裏切り者!」と罵る妹に、姉が今まで溜め込んでいたすべてをぶつけるシーン。
言葉で説明するのは不可能です。文字通り絶句です…。

続いて、無実の罪で解雇されて念願の大学行きがダメになってしまった男に対して、マヤが法に触れてまでお金を用意し、入学の手続きを済ませた上に、お詫びの印として万年筆をプレゼントしながら、「アメリカで一番の弁護士になって」と告げるシーン。
それまでの二人の関係、この後に展開されていくストーリーからも、このシーンはほんとに最高です。

最後は、ラストシーン。『ケス』の時に、底辺に暮らす人々の日常がいつもハッピーエンドなわけがないと、あの絶望的ともいえるエンディングを肯定しましたが、今回は、確かにつらい現実もありますが、このラストシーンには十分希望が溢れています。
すべてをぶつけあった姉妹の今後という意味でも、彼ら貧困にあえぐ人々の明日という意味でも、希望に満ちているエンディングです。

そして、この作品で忘れてはならないのが、ケン・ローチが初めてアメリカで撮影した作品ということです。
ハリウッド映画とは対極にある彼がアメリカで撮影することによってどうなってしまうのかと少し心配でしたが、まったくの杞憂でした。どこに行ってもケン・ローチはケン・ローチでした。

当ブログでも絶賛しましたマイク・リーや、他にもアラン・パーカー、さらにはあのキェシロフスキですら、彼から絶大な影響を受けたと語っているケン・ローチ。

今回のアメリカ撮影にあたり、現地スタッフなど多くの助力をしたのがあのスティーヴン・ソダーバーグ。
彼も自らの作品の中でケン・ローチにオマージュを捧げています。

このように、多くの作家たちに絶大な影響を与えてきた偉大な監督の作品が劇場公開されて見れるなんて、日本はほんとに恵まれています。

ちなみに、タイトルの『ブレッド&ローズ』とは、1912年にマサチューセッツ州で約1万人の移民労働者が、労働条件の改善を求めて立ち上がったときの、『We want bread but roses too.』というスローガンから来ており、“パン”は人として生きて行くためのギリギリの糧を、“薔薇”は豊かに生きるための「尊厳」と「夢」を象徴しているそうです。

最後に、ティム・ロスやベニチオ・デル・トロなどがカメオ出演しているそうです。自分は気づきませんでしたが、ぜひ探してみてください。

 

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[原題]Bread and Roses
2000/イギリス/110分
[監督]ケン・ローチ
[出演]ピラール・パディージャ/エルピディア・カリージョ/エイドリアン・ブロディ

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