『アメリカの影』(ジョン・カサヴェテス)

アメリカの影

今回は、『グロリア』に続いて2本目のジョン・カサヴェテス作品。

ジョン・カサヴェテスといえば、スコセッシやこの前紹介した『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のジム・ジャームッシュなどに絶大な影響を与え、ニューヨーク・インディペンデントの父などとよく言われますが、これを観て完全に納得。
専門的なことはわかりませんが、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などまったく同じ感じ。

一言で言えば、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』もこの映画も、ストーリーらしいストーリーはなくて、登場人物だちの“今”だけを切り取ってつないだ感じ。

そして、この映画は即興演出として有名ですが、クレジットを見てびっくり、いつもなら当然出てくるwriten by~がありません。

当ブログでも紹介しているマイク・リーも脚本なしで撮ることで有名ですが、脚本がない代わりに個々の徹底した役作りをした後に、本番でいきなり役者同士を対面させ生きた台詞を引き出すという感じで、脚本がないというより決められた台詞がないということでしょう。もちろん脚本のところにはマイク・リーの名前があります。

それに対しこの映画、ほんとにまったくの即興でしょう。
そうとは思えないぐらい台詞が素晴らしいですが。

というわけでストーリーらしきものをぐだぐだと書くことはありません。
あえて書けば、主人公の3人の兄妹が白人と黒人の混血ということで、人種問題が絡むことくらい。

アメリカの影 カサヴェテス

ということで、ここでは、思いつくまま好きなシーンを挙げます。

まずは弟のベン。サングラスに皮ジャンで、ポケットに手を突っ込みつつ背中を丸めて街を彷徨う姿決まりすぎ!

このベンが、カフェで悪友2人とたむろして、することもないので意味もなく美術館に行ってみるシーンのおかしさ。

ヒュー、ベン、レリアの3人の兄妹が部屋にいるシーンで、妹がダンスに誘った男をわざと何時間も待たせているのを、吹き出しそうになっているのをこらえている兄2人。

妹にできた白人のボーイフレンドが、兄を見てレリアが混血だと気づき急に態度を豹変させた時の、その男を追い出すヒューの凄み、その後レリアに言った「俺がついてる」。

先ほどの男がレリアに謝りに来て、レリアに伝えてくれというメッセージをベンに伝えた時、彼がいる間は真剣にそのメッセージを覚えようとしていたのに、男が去った後途端にヒューと思わず吹き出しそうになるベン。

何時間も待たされた挙句、散々馬鹿にされながらも、「君はひどい女だと思うけど、好きなんだ」とレリアを抱きしめるダンスに誘った男。

兄妹も周りの人たちも、置かれている状況は皆厳しいものです。
それでも、現実の厳しさよりも、人物たちの愛おしさの方が伝わってくる、ジョン・カサヴェテスの優しい眼差し。

そしてなんといっても、全編に渡って流れるチャールズ・ミンガスのジャズもたまらなくマッチしています。

「映画の8割は脚本で決まる」はビリー・ワイルダーの名言ですが、そして多くの場合その言葉は正しいですが、シナリオなんかまったくなくてもこんなに素敵な映画が撮れるなんて。

アメリカン・ニューシネマの代名詞である『俺たちに明日はない』や『イージー・ライダー』の10年も昔、デビュー作でこんなものを撮ってしまったジョン・カサヴェテス恐るべし!

傑作という言葉は似合いません、ブログのタイトル通り、まさに“愛すべき映画”。

~劇場鑑賞時の感想~
映画館で観るのは初めてですが、映画館を出た後はやはりベン・カルーザスのような歩き方をしていたような気がする。真似したい歩き方の最高峰。チャールズ・ミンガスの音楽をバックに、彼がひたすら街を彷徨っているだけでも、それだけでもどれだけでも観ていられるかっこよさ。

 

アメリカの影 [Blu-ray]

[原題]Shadows
1959/アメリカ/81分
[監督]ジョン・カサヴェテス
[音楽]チャールズ・ミンガス
[出演]レリア・ゴルドーニ/ヒュー・ハード/ベン・カルーザス

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