今回の1本も、前回に続いて映像美に酔いしれる1本。
前回、『こうのとり、たちずさんで』の時に、他の追随を許さないと書いたばっかりなんですが、舌の根も乾かないうちに前言撤回(笑)
『フルメタル・ジャケット』に続いて2本目のスタンリー・キューブリック作品。
キューブリック作品は、ずいぶんと前にDVDボックスを買ったんですが、この作品だけがずっと未見でした。理由は185分という長さ。
しかしいざ観てみると、退屈することもなく、3時間を超す長さはまったく気になりませんでした。
舞台は18世紀、アイルランドの青年が英国上流社会の仲間入りを果たすも、長続きするはずもなく没落するという、一言で言えば“栄枯盛衰”の物語。
このストーリー部分も十分に魅力的ですが、はっきり言ってストーリーなど問題ではありません。
とにかくこの映画は目で楽しむ映画。
アカデミー賞では監督、脚本、俳優などがまず目立ちますが、それ以外のところで4部門受賞しているのがこの映画。
撮影、美術、衣装、編曲、どれも完璧。
中でも有名なのが、照明器具を否定した撮影。
野外では自然光、室内ではロウソクの灯だけ。
特にカードをやるシーンの室内の美しさには言葉を失います。
『2001年宇宙の旅』『時計仕掛けのオレンジ』のように未来を描いても凄いキューブリックですが、過去を描かせてもこの出来、やはりただ者ではありません。
緑の草原に映える赤を基調とした軍服の英国軍隊の行進、豪華絢爛な貴族の衣装や調度品、まるで18世紀にタイムスリップしたかのような、息を呑む映像美。
完璧主義者キューブリックの面目躍如といったところでしょう。
美術に凝っている分いつもの毒が影を潜めているのかと思いきや、そこはさすがキューブリック、最後の最後にとんでもない一撃を用意していました。
この栄枯盛衰の物語を締めくくるエピローグの字幕。
「美しい者も醜い者も 今は同じ すべてあの世」
これにはやられました。
美術館で絵を観たり、劇場でオペラを観たような感覚にさせてくれる、3時間の映像叙事詩。
文句なしの、超一級の芸術品。
[原題]Barry Lyndon
1975/アメリカ/186分
[監督]スタンリー・キューブリック
[出演]ライアン・オニール/マリサ・ベレンソン/ハーディ・クリューガー
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