『息子の部屋』(ナンニ・モレッティ)

息子の部屋

『アンダーグラウンド』『秘密と嘘』に続いて3本目のカンヌ映画祭パルムドール受賞作品の登場です。

イタリアの小さな港町で暮らす、精神科医の夫とその妻、そして娘と息子の4人家族。
息子の事故による突然の死は彼らを悲しみのどん底にたたき落とすが、そんなある日一通の手紙が届く…。

物語の前半は、何ということのない家族の日常が淡々と描かれていきます。大げさに仲がいいように描いているわけでは決してありませんが、ここまで仲がいい家族もそうはいないと思わせるほど、見ているこっちまで笑みがこぼれてきそうな、そんな家族の日常です。

モレッティ扮する精神科医の夫、そしてその妻。
娘とそのボーイフレンドが一緒に古典の問題を解くのを、優しく見守る二人。
息子が学校でアンモナイトの化石を盗んだとして先生に呼び出されたりと、ほんとに何でもない毎日が淡々と過ぎていきます。

息子の部屋 ナンニ・モレッティ

そのあまりの平和な毎日だからこそ、息子の突然の事故死は残った3人の心にとてつもなく大きな穴を開けてしまうのです。
いきなり息子の死から入るのではなく、その前にあんなに笑顔が絶えない日常を見せられているからこそ、喪失感も一層際立ちます。

特に父親は、息子とのジョギングの約束を破り、日曜日にも関わらず往診に行っていた間に息子が死んでしまったため、死の責任を一身に引き受けようと思い悩みます。
妻は妻でもちろん動揺を隠せません。

さらに娘は、両親といる時は「残念ながら寂しくなんかない」と一番平気なように見えますが、母親と服を買いに行った時、試着室で一人きりになった途端、込み上げてくる涙を止めることができません。

このように、同じ死を目の前にしても、それぞれが受け止め方が違っていて、あんなに一つだった家族に少しずつ隙間ができていきます。
ただのお涙頂戴の映画になってしまうことなく、数少ない登場人物一人一人を丁寧に描いているところが素晴らしい。

中でもモレッティ扮する精神科医は、普段は患者の話をひたすら聞き、どんな時でも冷静に受け止める側だった彼が、患者の話を聞く以前に自分自身を支えられなくなっていきます。

家族が崩壊への道をひた走るなかで、一通の手紙が届きます。
息子のガールフレンドからの手紙に、そのガールフレンドの存在すら知らなかった自分たちに驚く彼ら。
彼女が持っていた息子の部屋の写真には、部屋を見たいという彼女に、部屋をバックにふざける彼の姿が写っていました。今まで見たことのない息子の姿。

そんな息子の姿に、少しずつでも変化を見せていく3人。
ただ前に進むのではなく、立ち止まり、受け入れられない現実に思い悩み、それでも歩き出そうとする3人。

息子の部屋 ラウラ・モランテ

彼女が新しい恋人とヒッチハイクをしていると聞き、車で国境まで見送る3人。
息子が生きていればあんな幸せそうなカップルだったのかと、息子にしてあげられなかったことをしてあげるかのように、彼女に代わりにしてあげる両親。

2人を見送った後浜辺を歩く3人。
くっついているわけでもなく、かといって離れているわけでもなく、微妙な距離をとって浜辺を歩く3人。
希望を残す、涙なしでは見れない、美しく切ないラストシーンでした。

当ブログで紹介している多くの作品と同じく、大掛かりですごいことなど何もありませんが、淡々と過ぎていく、静かで美しい風景。
そして、どうにもならない人の感情。

そんな抑えた演出を支える音楽を担当したのは、あの『ライフ・イズ・ビューティフル』でも音楽を担当したニコラ・ピオヴァーニ。音楽も美しく切ないメロディーでした。

『ニュー・シネマ・パラダイス』『ライフ・イズ・ビューティフル』に続いてまた、美しく切ない、素晴らしい映画がイタリアから届きました。

 

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[原題]La stanza del figlio
2001/イタリア/99分
[監督]ナンニ・モレッティ
[音楽]ニコラ・ピオヴァーニ
[出演]ナンニ・モレッティ/ラウラ・モランテ/ジャスミン・トリンカ/ジュゼッペ・サンフェリーチェ/シルヴィオ・オルランド

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