『キル・ビル』(クエンティン・タランティーノ)

キル・ビル

今回は、以前の日記で少し触れたタランティーノ作品から、彼が自分の好きなものをとにかく詰め込んでみました的な『キル・ビル』です。

今まで他の映画にまじめにコメントしてたのは何だったんだというくらい、とにかくハチャメチャです。

冒頭に、“黒澤明に捧ぐ”でも“小津安二郎に捧ぐ”でもなく、“深作欣ニに捧ぐ”ときたタランティーノ、この時点でつかみはOKです。

前に彼がどこかに書いてましたが、「トリュフォーなんか○食らえだが『子連れ狼』は最高」、この感覚。
もちろんトリュフォーが○食らえなわけはなく偉大な監督ですが、トリュフォーよりも『子連れ狼』が好きな監督が、海外に一人くらいいたっていいじゃありませんか。

『影の軍団』の全シリーズ全作品をテレビで観て全部ビデオにまで撮っているというタランティーノ、彼が日本で最高の役者だと語る千葉真一も、その名もずばり“服部半蔵”で登場します。

とにかく何でもありのこの映画ですが、千葉真一が「あいらいくべいすぼ~る」と喋っても、飛行機の各座席に日本刀が差してあっても、そんなことにいちいちツッコミを入れていてはこの映画は楽しめません。
日本はこんなんじゃない!とか、そんなことを考える前に、ただ楽しむだけ。

キル・ビル ユマ・サーマン

そして、海外の人々よりは我々日本人の方が絶対に楽しめるはず。

ししおどしの響く雪の降りしきる日本庭園で、梶芽衣子の「修羅の花」をバックに日本刀で殺しあうアメリカ人、このとんでもない組み合わせを堪能できるのは我々日本人だけではないでしょうか。

これには、エンニオ・モリコーネをバックに対峙する、『夕陽のガンマン』のリー・ヴァン・クリーフとジャン・マリア・ヴォロンテもびっくりでしょう(笑)

日本人をニヤリとさせるポイントはほんとにツボにはまりまくり。挙げたらキリがないので特にウケたのを3つ。

まずは、主人公がクレイジー88と壮絶な切り合いを繰り広げる場面。
その話に入る前の見出しがなんと“青葉屋の死闘”。ハリウッド映画なのに漢字で“青葉屋の死闘”。

深作欣二に捧ぐというだけあり、『蒲田行進曲』ばりの階段落ちもありますし、一人で大勢を相手にする時は狭い場所に立ち一人ずつ相手にするという、“殺陣の基本”に忠実な憎いほどの演出もあり。
おそらくありとあらゆる時代劇とチャンバラ映画を観ているであろう“マニア”タランティーノの真骨頂でしょう。

そして、先ほども少し触れた雪の日本庭園でのブライドとオーレンの1対1での、ユマ・サーマンとルーシー・リューの日本語でのやりとり。ルーシー・リューの「嘘つけ!」にはぶっ飛びます。
いざ最後の勝負に向かう時も、「行くよ」「来な」、なぜ日本語?(笑)

キル・ビル ルーシー・リュー

最後はエンドクレジットの梶芽衣子。劇場で観た当初は、“馬鹿な女の 怨み節~♪”というフレーズがしばらく耳から離れませんでした(笑)

とにかくほんとにタランティーノが自分の好きなものをこれでもかというくらい詰め込んだ作品。
最後は、審査委員長として『パルプ・フィクション』にパルムドールを与えたイーストウッドに、代わりに語ってもらいましょう。

クリント・イーストウッド1990年の名作『ホワイトハンター ブラックハート』、その中でジョン・ヒューストン(劇中ではジョン・ウィルソン)に名を借りてイーストウッドが言い放った言葉。
「映画を作るときは誰がそれを見るかなんて考えてはいけない。ただ作ればいいんだ。自分の作りたいものをな」

 

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[原題]Kill Bill: Vol.1
2003/アメリカ/113分
[監督]クエンティン・タランティーノ
[武術指導]ユエン・ウーピン
[出演]ユマ・サーマン/デヴィッド・キャラダイン/ダリル・ハンナ/ルーシー・リュー/千葉真一/栗山千明/マイケル・マドセン

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