『スモーク』(ウェイン・ワン)

スモーク 映画 ポスター

今回は、これまで何度となく見た大好きな映画『スモーク』です。

タバコ屋の店長オーギーのなじみの客で作家のポールは、家に帰る途中、危うく車に轢かれそうにそうになるところを黒人少年ラシードに助けられる…。

『秘密と嘘』『八月のクリスマス』の時に、「たいした事件も、大きな出来事もなく、人間関係と人の感情だけで見せる、これぞ映画」という言葉を使いましたが、この映画もそういう映画です。

何度でも観たくなる映画というのはこういう映画で、今書いたのと正反対の映画というのは、1回観てその時は感動するかもしれませんが、それ以上ではないわけで、結末もわかっているのにまた観たいとは思いません。

でも、こういう映画は、1シーン1シーンの、ちょっとした言葉や、表情や、仕草、そんな一つ一つがほんとに愛すべきもので、何度観ようがまた観たくなります。

上記2本との共通点としては、今回も写真が出てきます。
そして、写真の持つインパクトという点ではこの映画がずば抜けています。

ハーヴェイ・カイテル扮する写真屋の男は、14年間1日も欠かさず、同じ場所で同じ時刻に写真を撮り続けているんです。
いろんな場所に行って大量の写真を撮っているというのではなく、自分が住んでいる街角で、毎日朝8時に写真を撮るんです、しかも14年間毎日。

何千枚とある同じ場所で同じ時刻に撮影された写真。
しかし、彼が言うように、同じ写真は1枚としてないんです。晴れている日、曇っている日、暑い夏の日、凍える冬の朝。

スモーク ウィリアム・ハート

新しい顔が常連になり、古い顔が消えていく、この写真をウイリアム・ハート扮する作家と一緒に見るシーンがありますが、その写真を見ているだけで涙がこぼれ落ちてきます。
そして、そのアルバムに作家はある人を見つけます。これは見てのお楽しみということで。

二人でアルバムを見ながら語った次の日の朝も、またいつものようにオーギーはシャッターを切ります。

スモーク ハーヴェイ・カイテル

パンフレットに書いてある原作者ポール・オースターの話(というより新潮文庫の『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』よりの抜粋)によると、オーギーという人は実際にいて、何千枚と毎日写真を撮っているというのもほんとの話のようです。

『秘密と嘘』との共通点のもうひとつが、「嘘」です。この映画も多くの嘘に溢れています。
一人一人の登場人物の描写がほんとに深くて、それぞれが背負っているものの重みが、彼らにいろんな嘘をつかせます。

そして、この映画には他にも素敵なエピソードがたくさん出てきます。

タバコの煙の重さをどうやって量るかという話。
雪山で遭難した男の話(書いてしまうと楽しみが消えるので伏せておきます)。
自殺をしようとした作家(主人公の作家とは別)が、死ぬ前に最後に一服吸おうとした時、タバコを巻く紙がなくて、10年かかって書いた原稿の紙を破ってタバコを巻いたという、「死ぬ時に大事なのは本か一服のタバコか」という話。

タバコ屋、作家、少年以外にも魅力的な人物が多数登場しますが、その一人がさびれた自動車工場で働く、左手が義手の男。この男についての話が一番泣けます。自分は文字通り号泣でした…。

スモーク フォレスト・ウィテカー

さらに、この映画で素晴らしかったのは、映画はもちろんのこと、先ほども出てきましたパンフレット。
一人一人の登場人物についての紹介が結構深くて、その中にこんな言葉がありました。あまりにも強烈だったので引用させていただきます。
台詞ではなくて、ある人物についての紹介のコメントとして載っていました。

“恨みよりも、失った時よりも、触れた父が真実だった”

ほんとなら自分の言葉でこれに勝る表現をしたいんですが、太刀打ちできそうにないので、パンフレットから引用させていただきました。
映画をご覧になったら、この言葉の重みがわかっていただけると思います。

とどめは、ラストのエピソードのバックに流れる、トム・ウェイツの「Innocent When You Dream」。

最後に、これまたパンフレットに載っていたポール・オースターの言葉から。

“信じる者が一人でもいれば、その物語は真実になる”

(2004.9.1)

2016.12.31 映画館で鑑賞
何十回と観てるけど、映画館では公開時以来の21年ぶり。

オールタイムベスト100どころかベスト5でも迷わず入る映画だけど、映画の中に流れる時間のこの豊かさはちょっと別格。

そして、相変わらずこの映画を観た後だけは煙草を吸いたくなって困る。

一分一秒が愛おしく、全てが最高。

 

スモーク デジタルリマスター版 [Blu-ray]

[原題]Smoke
1995/日本・アメリカ/113分
[監督]ウェイン・ワン
[原作・脚本]ポール・オースター
[出演]ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ストッカード・チャニング/ハロルド・ペリノー・Jr/フォレスト・ウィテカー/アシュレイ・ジャッド

→予告編 →「Innocent When You Dream」 →他の映画の感想も読む

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