『デッドマン・ウォーキング』(ティム・ロビンス)

デッドマン・ウォーキング

今回は、死刑制度を真正面から扱ったこの作品。

死刑囚に寄り添うシスターということで、下手をすれば死刑囚に感情移入して終わりということになりそうなところを、この作品の素晴らしいところは、一方に偏らず、ちゃんと両面から物語を描いているということ。

死刑囚に感情移入するところももちろんありますが、その一方で被害者の遺族の悲しみをきちんと描くことも忘れていません。

そしてまた死刑囚の方に気持ちが傾きかけたなぁと思ったら、その都度殺害の残酷なシーンが繰り返し流されます。
そこで見ている方は、「あっ、この人はこんな残酷なことをした人だったんだ」と、あやうく忘れがちだった事実に引き戻されます。

さらには、死刑囚の家族という、これまた社会から冷たい目で見られる人たちにもちゃんとスポットを当てていて、ほんとに偏ることなく、いろんな角度からきちんと描かれているところが、この作品をここまでの作品にしていると思います。

デッドマン・ウォーキング スーザン・サランドン ショーン・ペン

物語終盤、シスターの懸命な努力によって、彼はやっと人としての感情に目覚め、“Dead man walking!”という看守の叫び声とともに、死刑の場へと歩を進めていくわけですが、その死刑を見守るシスター、愛する者を奪った男の最期をその目に焼き付けようとする遺族。
そして、執行前に最後に自らの家族と対面する死刑囚。被害者にも加害者にも親がいて子がいる、そんな当たり前の事実に胸が締め付けられます。

日本では、家族が面会に行ったらもう死刑が執行されていたという、嘘のようなほんとの話があるわけですが、家族と最期の別れの時を過ごし、被害者の遺族の方もその死刑を見届ける。
それで何が解決されるというわけではありませんが、ほんのこれっぽっちでも関係者の心の中に満足感(この言葉は不適切かもしれませんが他に上手い言葉が見つかりません)が得られるならば、それはそれで間違っていないように思います。

最期を迎えるマシューの表情は、表現する言葉を持ちません。あんなに傲慢な態度を見せていた彼が最後に見せた、これ以上なく穏やかで、誰よりも「人間」らしい表情。
今までの彼からはもっともかけ離れていた表情。絶句です…。

死刑制度が良いとも悪いとも決めつけず、最後は観ている者に判断を委ねるこの作品。
観る度にほんとに考えさせられます。

 

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[原題]Dead Man Walking
1995/アメリカ/123分
[監督]ティム・ロビンス
[主題歌]ブルース・スプリングスティーン
[出演]スーザン・サランドン/ショーン・ペン/ロバート・プロスキー

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