『俺たちに明日はない』(アーサー・ペン)

俺たちに明日はない

“アメリカン・ニューシネマの先駆的傑作”などと言われますが、そんな大げさなことはどうでもよくて、とにかくかっこいいの一言。

そして、『ワイルドバンチ』同様、自分の好きなパターンである“滅びの美学”。

「フォギー・マウンテン・ブレイク・ダウン」の軽快なメロディのおかげか、前半は犯罪を犯しながらものどかなロードムービーという感じもなくはないですが、物語も終盤、“どうしようもなさ”が痛いほど伝わってきて胸が痛くなります。

俺たちに明日はない

それを決定づけたのがボニーのお母さんのこの一言。
お母さんの家の近くに家を持ちたいという二人に対し、そんなのすぐに捕まっちゃうからとても無理だよと言った後に、「一生逃げ回るしかないよ そうだろ?」
この一言はほんとに強烈。これを聞いたフェイ・ダナウェイの表情も見事の一言。

そして、あまりにも有名なラストですが、それ以外にも名シーンには事欠きません。

まずは、クライドがボニーに一緒に行こうと誘う時のこの一言。
冒頭のシーンの仕草に見事に表現されていたように、ボニーはウェイトレスをしている今のつまらない生活に飽き飽きしていて、なんとかそこから抜け出せないものかとそう思っているわけですが、それに対してこの一言。
「君はただの女じゃない、僕と一緒に何かを求め続ける女だ」
会ってすぐの人にこんなことを言われたら、ボニーじゃなくてもぐらりとくるでしょう。大好きな台詞。

銀行の差し押さえの看板を撃つシーンも大好き。
ただの犯罪者といえば犯罪者のクライドですが、こういう細かいシーンによってそれだけではなく描かれているところが見事。
このシーンは、1930年代の大不況の時代背景を一発で理解させてくれるという点でも重要なシーン。

さらに、ボニーが書いた二人のことを書いた詩に対して言ったクライドのこの台詞。
「これが僕の一生だ、これで全部だ、それを君が書いてくれた、世間の語り草に」
泣けます…。

そして、二人が始めての愛を交す時、詩が載った新聞が風に舞う草原の美しさといったらもうありません。

ラスト近く、ボニーがクライドに「明日、ここを出られて、真人間の暮らしができたら?」と言うくだりもきます…。

そして、あまりにも有名なラスト。
衝撃とか圧巻とかいう言葉ではまったく役不足です。

今観てこれですから、当時リアルタイムでこれを観た人が受けた衝撃は、想像の域を越えていることでしょう。

羽ばたく鳥の群れ、静寂、見つめ合う二人のアップ、87発の銃弾の嵐、静寂、感情移入する暇もなく、我に返った頃にはすでに容赦なく「THE END」。パーフェクト。

見つめ合う二人の表情はほんとに何とも言えません。それでもフェイ・ダナウェイの表情には確かに微笑みが。
このフェイ・ダナウェイの表情はずっと忘れることはないでしょう。

そして、主演の二人の他にも、若き日のジーン・ハックマンに、ボニーだけでなく観客までも怒りに狂わせる見事な演技でアカデミー助演女優賞を獲得したエステル・パーソンズ。

そして何より凄いのは、これが実話だということ。

ラストのシーンについては実際の記録フィルムが残っていて、実際には87発どころではなく、もっと凄惨な死体だったとのこと。

作り話だとしても十分に凄いのに、実話だなんて…。
それを考えるとほんとに鳥肌モノ。

 

俺たちに明日はない [Blu-ray]

[原題]Bonnie and Clyde
1967/アメリカ/112分
[監督]アーサー・ペン
[出演]ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ/ジーン・ハックマン/エステル・パーソンズ

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