『フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック)

フルメタル・ジャケット

今回は、数ある戦争映画の中でも大好きな1本のひとつ『フルメタル・ジャケット』。

ベトナム戦争へ派遣される海兵隊員になるべく、新兵訓練所に投げ込まれた青年たちの訓練の様子を描いた前半と、彼らが赴いた戦場での様子を描いた後半、そんな2部構成の作品です。

前半の訓練シーンは、放送禁止用語連発の鬼教官がほんとに笑えます。この教官と一緒のジョギングのシーンの掛け声も爆笑です。
新兵達は人間としては扱われず、両生類の○○以下と罵られながら、地獄のような訓練に耐えていきます。

ただ、笑ってばかりもいられなくて、このようにして若者を「殺人マシーン」へと変えていくその過程は、空恐ろしくもあります。

その中の運動神経まるっきりなしの太った1人の新兵が、何をやってもだめなので、教官には罵られ、仲間達からも袋叩きにあい、そんな中でこの男の表情が、初めはヘラヘラ笑っていたのがだんだんと男の顔へと変貌を遂げていくあたりも、ほんとにうまく描かれています。

フルメタル・ジャケット ハートマン軍曹

後半は、その太った男の面倒を見ていた兵士がベトナムに実際に行って、訓練所当時の仲間とも再会し、実際の戦闘へと駆り出されていきます。

あの地獄のような訓練も、さっきまで話していた仲間が一瞬で殺されてしまうこの現実の地獄の前でははるかにマシ。
生きるためには殺すしかない、その現実の前でだんだん麻痺していく感覚…。

フルメタル・ジャケット 戦場

また、『プライベート・ライアン』のように大勢の軍隊同士がドンパチやるというのではなく、少数の部隊と、相手は1人のスナイパー。
1人また1人と仲間が殺されていくうちに、やっと相手を追い詰めた時に見たものは…。

そこで一線を踏み越えてしまった主人公の、「もう恐れはしない」との言葉がとても印象的でした。

湾岸戦争の模様がTVに流れた時に誰かが「ゲームのようだ」と言ったように、大きな視点で戦争を描くと今一リアリティーを感じませんが、この前紹介しました『スターリングラード』でもそうでしたが、視点を絞ることで、ほんとに自分もその場にいるような、そんな臨場感は見事の一言です。

そして、ラストの、炎に包まれる建物の側をミッキーマウスの歌を歌いながら行軍する兵士たち、このシーンは、まさに地獄の戦場と、陽気なミッキーマウスの歌、そんな歌でも歌っていなければ自らを保っていられないという、そこまでの思い…。
悲しくも美しい素敵なシーンでした。

 

フルメタル・ジャケット 日本語吹替音声収録版 (4K ULTRA HD & ブルーレイセット)(2枚組) [4K ULTRA HD + Blu-ray]
[原題]Full Metal Jacket
1987/アメリカ/116分
[監督]スタンリー・キューブリック
[出演]マシュー・モディーン/アダム・ボールドウィン/ヴィンセント・ドノフリオ/R・リー・アーメイ/ドリアン・ヘアウッド/アーリス・ハワード

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