『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツァ)

アンダーグラウンド

1995年度のカンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作。
カンヌ受賞作はほんとに錚々たる作品が並び、大好きな作品も多いですが、その中でも特に大好きな1本です。

第二次大戦中のベオグラード、武器商人のマルコは、地下室に避難民たちをかくまい、武器などを製造させ巨万の富を築く。
戦争が終わり平和が訪れた後も、彼らにそのことを教えず、ずっと地下に閉じ込め続ける。
しかし、何も知らない彼らは、今まで通りの毎日を過ごす…。

このように、時代背景や物語ははっきりいって暗いですが、暗さを微塵も感じさせず、悲しみや憎しみを、笑いと一度聞いたら二度と忘れられないあの独特の音楽と、そして圧倒的なパワーで吹き飛ばす!

その圧倒的なエネルギーのおかげか、171分をまったく長く感じさせません。
自分は2時間を超える映画は普段は一歩引いてしまいますが、これはほんとに苦になりませんでした。

ただ、体力を要するのもまた事実。この圧倒的なパワーについていくには、それなりに疲れます。
といっても、長くてだれるとかそういうのとは違い、171分ひたすらそのエネルギーに引っ張られていきます。

そして、この映画にはすべてがあります。笑えて、泣けて、突き放されて、そして考えさせられて…。

アンダーグラウンド クストリッツァ

この泣けるというのも、他の映画のような、感動して泣けるというのとは少し違います。
可笑しくて、哀しくて、気がついたら涙が止まりません。

グサッとくる台詞にも事欠きません。
「赦してくれ」「赦すけど、絶対に忘れない」、たった一言ずつのマルコとクロのこの会話。
しかし、そこには50年の年月の重みがあります。このシーンはきます…。

さらに、「僕らは痛みと悲しみと喜びをもって子供たちに、こう話します。“昔、ある所に国があった・・・”」。
普段平和な日本に暮らしている自分たちに、自らの住む『国』があるのは実は当たり前のことではないんだというのを、これまた直球で心に投げかけてきます。
そして、ついに“ユーゴスラビア”という名前が地球上から消え去ったのです。

とどめはこの言葉。「この物語に終わりはない」。
今の世界の情勢を見ていると、恐ろしいくらいに説得力のある一言でした。

最後に、カンヌでパルム・ドールを受賞したものの、あまりの賛否両論の嵐に、「映画なんてもう止めた」と言い残して放浪の旅に出てしまったクストリッツァ監督でしたが、数年後開き直った彼は『黒猫・白猫』でまたまた魅せてくれました。
これからも衝撃作を撮り続けて欲しいです。

2011.12.11 リバイバル上映鑑賞時の感想
映画館では15年ぶり。宙を舞う花嫁、戦車に乗り込む猿、生まれて初めて見る月、50年経っても続いている戦争、2回も殺されるフランツ。炸裂するイマジネーション、押し寄せる感情の波、“この物語に終わりはない”の言葉通りいつまでも鳴り止まない音楽。圧倒的。大傑作。

 

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[原題]Underground
1995/フランス・ドイツ・ハンガリー/171分
[監督]エミール・クストリッツァ
[出演]ミキ・マイノロヴィッチ/ラザル・リストフスキー/ミリャナ・ヤコビチ

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