今回の1本は、ラブストーリーともサスペンス・ミステリーとも言える、そんな映画。
仕立て屋の、孤独な生活を送る男。
そんな彼のたった一つの楽しみは、向かいに住む美女を覗くこと。
この「覗き」というのは、ヒッチコックの『裏窓』でもあったパターンですが、あの作品は覗く方がジェームズ・スチュワートにグレース・ケリーと華のある2人で、しかも、最初は退屈しのぎに覗くという感じで、あまり暗さは感じなかったんですが、今回は、自分でも社交性がまったくないと認める、自他ともに認める孤独な暗い男。
映像の色調もさらに拍車をかけていて、孤独が画面の隅々からにじみ出てます。
そんな彼が目撃したものは?
覗かれていた女がそのことに気づいた時から物語は…。
ここから、ラブストーリーとしての要素と、サスペンスとしての要素が同時に展開していきます。
そして、その先に待っていたものは…。
「君を少しも恨んでないよ。
ただ、死ぬほどせつないだけだ。
でも、構わない。
君は喜びをくれた」
どこで出てくる台詞かは秘密ですが、このシーンにはほんとに震えました。
そして、物語は衝撃の結末へ…。
怖いという意味ではこれほど怖い作品はそうはありません。
『サイコ』のように、あれはあれで最高の作品ですが、ああいうふうに誰が見ても怖いというふうなのではなくて、人間の心理の悲喜交々だけて震え上がるほどの怖さを感じさせてしまうパトリス・ルコント、恐ろしい才能の持ち主です。
[原題]Monsieur Hire
1989/フランス/80分
[監督]パトリス・ルコント
[音楽]マイケル・ナイマン
[出演]ミシェル・ブラン/サンドリーヌ・ボネール/リュック・テュイリエ
前回が『仕立て屋の恋』でしたので、ついでといってはなんですが、同じパトリス・ルコント作品から『髪結いの亭主』。 ルコント作品としては、こっちのが有名かもしれません。 子供の頃からずっと女の理髪師さんと結婚したいと思っていた中年の[…]