「誰もが私に秘密を打ち明ける、私は誰に打ち明ければいい?」
今回は、凄まじい演技の火花が飛び散る、『あるスキャンダルの覚え書き』です。
一発の銃弾も、一滴の血も流れないのに、この圧倒的な緊迫感。
ある学校に新たに赴任してきた美しい美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)。
そんな彼女に目をつけた、定年間近のオールドミスの歴史教師バーバラ(ジュディ・デンチ)。
やっていることは、一言で言ってしまえばストーカー(ちょっと違うか)なわけですが、異常だと思う反面どこか理解もできてしまう。
その根本にあるのは、バーバラの孤独。圧倒的な孤独。
教師という世間的には一目置かれる地位にありながら、仕事への情熱はとうの昔に冷め、心を許せる相手はおらず、その体に触れられたことはただの一度もない。
ジュディ・デンチの、見たくもない入浴シーン(笑)での、「バス運転手の手がたまたま軽く当たっただけで、下腹部が熱く疼く」の台詞の凄み。
一方、シーバもまた孤独を抱えていた。
20歳の時、妻子ある教師と関係を持ち、そのまま結婚。
もはや初老の域に入りかけている夫、わがままな娘に、ダウン症の息子。
この10年、息子の世話だけに全てを捧げてきた。
夫と子供二人、幸せじゃないわけじゃない、でもこれが夢見ていた生活なのか?
「地下鉄のホームと電車の隙間みたい、つまり、埋めがたい空白よ、夢見た人生と、現実の人生とね」
そんなシーバは、若い生徒の誘惑を拒みきれず、一線を越えてしまう。
それを目撃してしまったバーバラ。
ショックを受けつつも、絶好のチャンスだとほくそ笑むバーバラ。
誰にも言わない代わりに、貸しを作り、二人だけの秘密を共有する。
そして、シーバが約束を破った時、バーバラの狂気が炸裂する。
自分の仕業だと気づかれないようにシーバを追いつめ、“頼れるのは自分しかいない”という方向にもっていくバーバラ。
“全て”をシーバが知った時、決戦の火蓋が切って落とされる!
って別に殴り合いが始まるわけではありませんが(ビンタはありますが)、ここまで一方的に押されっぱなしだったケイト・ブランシェットが、ついに反撃を開始する。
イギリス女王同士のガチンコ対決。
その軍配はいかに?
って何の映画かわかりませんね(笑)
むちゃくちゃ怖いジュディ・デンチの上手さは今さら書くまでもないですが、そんな大先輩に真っ向から挑んでいるケイト・ブランシェット。
30代半ばの設定で(実年齢通り)、15歳のガキをイチコロにさせる魅力を振りまきながら、抱えている孤独も見事に滲ませ、いったんスイッチが入れば、あのジュディ・デンチすら圧倒する。
そういう設定なだけで、ジュディ・デンチが本気で凄み返したら一瞬でひれ伏しそうですが(爆)
それに何より、彼女が圧倒的に美しい。
20代の女優が絶対に出せない、大人の女性の美しさ。
あんな先生が赴任してきたら、そりゃ生徒が惚れるのも無理はない(笑)
他では、彼女の夫に、“デイヴィ・ジョーンズ”ことビル・ナイ。
考える時間が欲しいと、いったんシーバを家から出て行かせた時の、「なぜ、私を頼らなかった?“孤独よ、助けて”と一度も言ってくれなかった。サエない夫だけど、君のそばにいたのに」なんかいいなぁ。
この映画、これだけの濃厚なドラマを描きながら、わずか92分。無駄なシーンは一切ありません。
そして、最後まで観た時気づくのです、実は一番怖いのはタイトルだったんだと。
sはscandalではなくnoteについていたんだと。
この映画、アメリカで実際に起きた事件を元に書かれたベストセラーが原作。
それをイギリスに舞台を移したわけですが、生徒がシーバに言った「“ザ・ストリーツ”は好き?」のたった一言で、もう完全にイギリス。こういう細かいところも巧い。
名優二人を得て、一級品のサスペンス。
[原題]Notes on a Scandal
2006/イギリス/92分
[監督]リチャード・エアー
[撮影]クリス・メンゲス
[出演]ジュディ・デンチ/ケイト・ブランシェット/ビル・ナイ
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