『めぐり逢う大地』(マイケル・ウィンターボトム)

めぐり逢う大地

今回は、当ブログでは初登場ながら大好きな監督の1人マイケル・ウィンターボトムの『めぐり逢う大地』です。

1867年アメリカ西部、カリフォルニア州のシエラネバダ山脈。ゴールドラッシュによって生まれた町“キングダム・カム”。
1人の男によって支配されるこの町を訪れた3人の男女によって、運命は大きく動き出す…。

1867年ということは、この前紹介しました『ギャング・オブ・ニューヨーク』とまさに時代が重なっています。
あの映画のラストでの暴動が起きたのが1863年ですから、10年と変わりません。
あの映画でキャメロン・ディアス扮するジェニーが、最後の決闘の前に、アムステルダムに「サンフランシスコに行きましょう」と誘っていました。
そのジェニーが目指した地、ゴールドラッシュに沸く西部が今回の舞台です。

“天国”を意味するこの町を支配する1人の男。
ゴールドラッシュの成功者の1人である彼は、巨額の富を手に入れ、今やこの町では文字どおり“キング”として君臨しています。
しかし、彼がその富と引き換えに失ったもの、過去に行われた“取引”はあまりにも強烈です。ここではそれは伏せておきます。

そんな彼が支配する町に現れた3人の男女、1人は鉄道の測量隊の主任技師。
この頃のアメリカでは東西から鉄道を敷き、真ん中で合流させようという大陸横断鉄道の建設の途中だったわけですが、この町に鉄道を通すかどうか、その測量にきたわけです。
鉄道が通るかどうかは町の将来を決めます。

残りの2人がエレーナとホープの親子。彼ら2人は“親戚”に会いに来たというだけで、初めは詳しいことはわかりませんが、これも後々明らかになっていきます。

めぐり逢う大地 ナスターシャ・キンスキー

この2人と共に、物語で大きな役割を果たすのが、ミラ・ジョヴォヴィッチ扮する酒場の女主人でもあり、“キング”の女でもある女性。
ミラ・ジョヴォヴィッチが歌うファド(ポルトガル民謡)が絶品。
これを聞くだけでも、この映画を観る価値は十分にあります。

めぐり逢う大地 ミラ・ジョヴォヴィッチ

そして、偶然の“めぐり逢い”が実は偶然ではないと解り始めた時、時代がゴールドラッシュから大陸鉄道の時代へと大きく変わり始めた時、“キング”の没落が始まります。
冒頭に触れた“取引”、その贖罪にすべてを賭ける“キング”、しかし、彼が払った代償はあまりにも大きかったのです。

ラスト近く、彼が自らの“キングダム”に火を放つシーンの、彼の表情は言葉で説明するのは不可能です。
すべてを手に入れ、そしてすべてを失った男。

めぐり逢う大地 マイケル・ウィンターボトム

彼の贖罪も、“取引”によって得た富のすべてと、自らの命まで神に差し出した時、彼が一番聞きたかった一言「お父さん」が、初めて彼に投げかけられます。
しかし、彼はもはやその言葉を聞くことはできません…。

そして、『ギャング・オブ・ニューヨーク』と同じように、今回も移民の物語でもあります。
“キング”はアイルランド、エレーナはポーランド、先ほどの女主人はポルトガル、測量技師はスコットランドなどなど。
ファドを歌ったルシアが、自らが作った新しい町につけた名前が、故郷「リズボア」でした。

『ギャング・オブ・ニューヨーク』もこの映画も、アメリカがまだ国として完成される前の話。
ヨーロッパの国々と違って、アメリカには国家としての歴史がまだ200年ほどしかありません。
この2本の映画の背景もたった150年前です。

自らの手で町を作るということ、国を作るということ。
その圧倒的なエネルギーに何よりも打たれます。

国を作るその歴史の中で消えていった、無数の名もなき命。
しかし、古い時代と共に“キング”がその命を引き取ったまさにその時に、次の世代は新しい一歩を歩み始めたのです。

消えていった人々の精神と希望は次の世代に受け継がれていくんだと、そんな思いを込めてウィンターボトムが娘につけた名前、それが“ホープ”。この名前がこの映画のすべてでした。

 

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[原題]The Claim
2000/イギリス・フランス・カナダ/121分
[監督]マイケル・ウィンターボトム
[原作]トーマス・ハーディ
[音楽]マイケル・ナイマン
[出演]ウェス・ベントリー/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ミュラン/サラ・ポーリー

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