ジョン・カサヴェテス第4弾。
場末のストリップクラブ“クレイジー・ホース”のオーナーコズモ。
ポーカーでマフィアに借金を作ってしまい、その借金の帳消しの代償として、暗黒街のボス、チャイニーズ・ブッキーの殺害をもちかけられる…。
というわけで、これまでの『アメリカの影』や『こわれゆく女』での家族や夫婦の日常的な世界とは異なり、フィルム・ノワール的1本。
といっても、いつものように、登場人物たちに寄せる優しい眼差しは何ら変わることはありません。
主人公コズモ、彼の店で働く人々。美しいストリッパーたち、芸人ミスター・ソフィスティケーションなどなど。
“クレイジー・ホース”、それがコズモの全て。いかにしてお客さんを楽しませるか。
ストリッパーの踊りで楽しませ、ミスター・ソフィスティケーションの語りは観客をウィーンやパリへと誘います。
彼がどんなにこの店を、そして仲間たちを愛しているか。
命の危険にさらされながらも、自分がいない店の状況が心配で店に電話をかけるシーンがあります。
ステージには誰が出てる?音楽は何が流れてる?
いかにしてお客さんを楽しませるか、どんなに自分の身に危険が迫っていても、気になるのは店であり今夜のショーであり、お客さん。
コズモの思いが伝わってくる素敵なシーンです。
腹に傷を負いながらも店に帰ってくると、開演時間なのにショーが始まっていません。楽屋では何やら揉め事が。
「いつも踊り子たちに拍手があって、自分は賞賛されることがない」と自身喪失するミスター・ソフィスティケーション。
コズモは優しく語りかけます。「俺が本当に幸せなのは、バカを演じているときだ。どんな人格も選べる…、人格を選んで舞台に立て」
いつしか皆で歌い始め、それを笑顔で見つめるコズモ。このシーンはほんとにたまりません。
自ら舞台に立つと、遅れたことを客に謝ると、バーテン、お酒を配る女の子と、一人一人にスポットライトを当てて紹介します。
一人一人が、彼にとってはかけがえのない“クレイジー・ホース”の仲間なのです。
そして、ミスター・ソフィスティケーションやストリッパーたちのショーが始まると、一人店を出て夜の路上に佇むコズモ。
横腹からは血を滲ませ、一人突っ立っているコズモ。
でも、コズモが店のみんなに優しい眼差しを向けたように、画面の外にはそんなコズモを優しく見つめるカサヴェテスがいるのです。
いつもながらに、何よりもこのカサヴェテスの眼差しに心打たれます。
それにしてもベン・ギャザラ。
『グロリア』がジーナ・ローランズがそこに立っているだけで十分なら、この映画はベン・ギャザラが微笑みを浮かべてそこに立っているだけで十分。
コズモ・ヴィッテリ、その微笑みは忘れない。
[原題]The Killing of a Chinese Bookie
1976/アメリカ/135分
[監督]ジョン・カサヴェテス
[出演]ベン・ギャザラ/ミード・ロバーツ/シーモア・カッセル