今回は、“男ならこれで泣け!”の最高峰、ブライアン・デ・パルマ初期の傑作『ミッドナイトクロス』です。
集音マイクを手に夜の闇に繰り出した、映画の音響効果技師ジャック(ジョン・トラヴォルタ)。
木の葉が風に吹かれざわめく音、男女の語らい、蛙の鳴き声、よくわからない奇妙な音、梟の鳴き声。
そこへ聞こえてきた、車の走る音。
それも束の間、ハンドルを失い道路脇の柵を突き破った車は、真っ逆さまに川に落ちていく。
とっさに川に飛び込むと、車の中には男女の姿が。
すでに事切れている男を横目に、必死の思いで女を救出。
病院で、助けたサリー(ナンシー・アレン)を飲みに誘っていると、周りの物々しさが普通じゃない。
車の中にいた男は、有力な大統領候補だった…。
遺族の名誉のために、何も見なかったことにしてくれと、早速ジャックには圧力が。
警察もマスコミもただの事故として処理、同乗していたサリーの存在はなかったことに。
でも、自分はあの現場にいて、この目で見、この耳で聞いたんだ。
刑事の過去を持つジャック、この手の話に首を突っ込むことがいかに危険なことか、当然百も承知。
実は暗殺かもしれないのに、事故にされるのが許せなかったのか?
正義感が彼にそうさせたのか?
それももちろんあるにはある。
でも、ジャックが譲れなかったのは、映画の音響効果を扱うプロとしての、己の耳への絶対の信頼。
あれはただのタイヤのパンクの音なんかじゃない、あれは絶対に銃声だ。
雑誌に掲載された事故を撮っていた大量の連続写真をつなぎ合わせ、映像にすると、自らが録音した音と重ね合わせるジャック。
“パラパラマンガ”の要領の最初の段階から、最終的に映像と音声が重ね合わさるまで、ここらへんはプロの技術を堪能できます。
時代が時代なので、フィルムに手書きで印をつけたりと、アナログ感全開なところも、雰囲気が抜群。
暗殺を確信したジャック、誰も信じてくれない中、テレビ局の人気リポーターが特ダネ狙いでジャックと接触をはかる。
しかし、“存在してはならない”サリーを消すため、犯人の魔の手はジャックとサリーに少しずつ伸びてきていた…。
サスペンス映画なので、これ以上詳しくは書きませんが、“男ならこれで泣け!”なのは、なんといっても最強のラスト10分。
お祭りのパレードの中を疾走するカーチェイスに始まり、群衆をかき分け必死にサリーを探すジャック、サリーを見つけたジャックが駆け出すと同時に始まるスローモーション、サリーを抱きかかえるジャックを地面から捉えたカメラが映し出す、映画史上屈指の美しさを誇る花火。
バックに流れるのは、ニーノ・ロータも真っ青な、ピノ・ドナッジオによるどこまでも切ない極上の名曲「Sally and Jack」。
この曲は、タランティーノが『デス・プルーフ』で使いましたね。
そして、とどめの“It’s a good scream.”。
部屋の中を360℃回したり、画面を分割したり、俯瞰で捉えたりと、デ・パルマ印のカメラワークも存分に楽しめる作品ですが、突っ込もうと思えば、いろいろ突っ込める作品ではあります。
ただ、ラスト10分がなんといっても最強。
“男ならこれで泣け!”としては外せない1本です。
ミッドナイトクロス -HDリマスター版- [Blu-ray]
[原題]Blow Out1981/アメリカ/108分
[監督・脚本]ブライアン・デ・パルマ
[撮影]ヴィルモス・ジグモンド
[音楽]ピノ・ドナッジオ
[出演]ジョン・トラヴォルタ/ナンシー・アレン/ジョン・リスゴー
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