わずかに残った良心に身を委ねた時、男は心ならずも最も信頼する仲間たちを裏切る道へと歩を進めていく…。
ニューヨーク市警の麻薬特捜チームは、捜査に際し大幅な特権を与えられ、“プリンス”と呼ばれていたが、彼らの分不相応な贅沢な生活は、汚職によるもの。
麻薬常習者でもある密告人に麻薬を売り、組織から没収した大金は山分けと、やりたい放題。
業を煮やした検事局は、チームのリーダーであるダニーを、仲間だけは裏切らないという条件で潜入捜査官に招き入れる…。
元々は、正義に燃えて警官になったダニー。
それがいつの間にか汚職に染まり、10年の月日が経とうとしていた。
検事局がつけこんだのは、ダニーに残っていた“良心”。
ダニーたちが汚い手を使っていたのも、正規の方法ではとても巨大な組織に立ち向かえないため。
より大きな国レベルのチームで働くようになったダニーは、“正しいことをしながらも悪に立ち向かえる”その立場の魅力に溺れていくことになります。
しかし、それは同時に、裏切りの日々の始まりでもあります。
持ちつ持たれつだった組織からは命を狙われ、警官たちからは裏切り者と囁かれ始めます。
そんな毎日に、少しずつ、少しずつ追いつめられていくダニー。
そしていよいよ、家族よりも長い時間を共に過ごした仲間をも裏切るはめに。
ダニーは検事側につく時に、3件だけ過去の汚職を認めますが、もちろん10年で3件だけのはずはありません。
そんなダニーを巡って、やがて検事チームの中でも意見が割れることに。
ダニーのやっていることはわかっていながら、法廷で偽証させてまで、ダニーを使ってより大きな悪と対決することを優先させる者。
法の番人たる側が偽証などけしからんと、ダニーを起訴しようとする者。
3件だけと偽証を続けていたダニーも、ついに全てを話すことに。
しかしそれはすなわち、長年チームを組んできた仲間を刑務所に送ることを意味します。
気の弱い同僚は自ら命を断ち、固い絆で結ばれた相棒は、一人検事たちに立ち向かう決意を固めます。
ここでダニーを起訴したら、誰も内部告発をして検事に力を貸してくれる者などいなくなる、しかし、ダニーのやってきたことは決して許されることではない。
そして、運命の時…。
凄いのは、これが実話だということ。
警察モノなのに、派手なドンパチどころかアクションシーンすらほとんどないことに加え、168分と長尺ながら、最後まで緊張の糸が途切れることはありません。
シドニー・ルメット監督、渾身の傑作。
[原題]Prince of the City
1981/アメリカ/168分
[監督・脚本]シドニー・ルメット
[出演]トリート・ウィリアムズ/ジェリー・オーバック/ノーマン・パーカー