『コンドル』(ハワード・ホークス)

コンドル

ケイリー・グラント第5弾。

今までは『シャレード』を除いてコメディばかりでしたが、今回は、ドタバタしないケイリー・グラントのかっこよさを堪能できる映画。

エクアドルの小さな港町。
船から降り立った一人の美しい女性に、二人の男が声をかける…。

この女性ボニーがジーン・アーサー、いきなり豪華です。
初めは相手にしなかったボニーも、二人が自分と同じアメリカ人だと知り打ち解けます。

酒場でステーキとお酒を注文していると、仕事の命令が。
二人はパイロット、民間の航空会社(時代が時代ですし飛行機は小さなものですが)で郵便などを運んでいます。
その会社の経営者がジェフ(ケイリー・グラント)。

二人のうちの片方が、悪天候にも関わらず飛び立ちます。
しかし、空模様は最悪、危険だからあと3時間ほど旋回して様子を見て着陸しろとジェフ。
3時間?それじぁあの金髪の美女が船に乗ってしまう、大丈夫だ降りられると男。
皆が固唾を飲んで見守る中、案の定命を落とす男。

自分のせいだとショックを隠せないボニー。
平気な振る舞いをしているジェフのことをなんて無神経な男と罵ります。

しかし、ジェフ初め男たちだってもちろん平気なわけはありません。
それでも、歌い、飲み、騒ぎ、なんとか自らを保っているのです。

コンドル ハワード・ホークス

ボニーはジェフの親友キッド(トーマス・ミッチェル)に尋ねます。
「あのジェフも飛ぶことがあるの?」
そこには自らは危険を犯さず若者に飛ばせているという思いが。
しかし、キッドは答えます。
「一番危険な時は彼が飛ぶ」
かっこよすぎます…。

死んだ男の代わりに、マクフィアソン(リチャード・バーセルメス)が町にやってきます、美しい妻ジュディを伴って。

このマクフィアソン、かつてキッドの弟と一緒に乗っていた飛行機がトラブルを起こし、自分だけがパラシュートで助かったという過去があり、そんな男の登場に、当然皆はいい顔をしません。
「こいつをここで働かせる気か?」と男たち、「失せろ、殺すぞ」とキッド。
しかしジェフは彼を雇い、その代わり危険なフライトは全て彼に任せます。

そして、マクフィアソンの妻ジュディというのが、かつてはジェフの恋人であり、ジェフが女性に対し“ひねくれた”原因となったまさにその人。扮するのはリタ・ヘイワース!豪華な顔ぶれです。

船に乗るのをやめ留まったボニー、現れたかつての恋人、そしていわくつきのパイロットの登場、たまらない展開です。

ジェフが視力の衰えたキッドに引退を促すシーンの、二人のやりとりもたまりません。

ジュディのことが気になるボニーがキッドに尋ねた時のやりとりもいいですね~。
「あの女の人が、彼が昔好きだった人?」
「石を投げれば昔の女に当たるよ」

そして、大一番のフライトの時、ジェフは自ら飛ぼうとし、パイロットは引退したものの、どうしても一緒に行かせてくれと懇願し一緒に飛ぶことになったキッド。
しかし、ある事故でジェフは片腕が動かなくなり飛べません。

あたりを見回すキッド、そして弟の仇マクフィアソンを指名。
殺したいほど憎いマクフィアソンに自らの命を託すキッド、ここぞとばかりに過去に決着をつけようとするマクフィアソン。
いよいよ二人を乗せた飛行機が飛び立ちます。

途中までは順調だったものの、“ニトロの恨み”とコンドルの復讐(意味は観てのお楽しみ)、キッドは頭を強く打ち話すのもやっと、飛行機は燃え上がります。

助からないことを悟ったキッドは、マクフィアソンに「逃げろ」
しかしマクフィアソンは答えます、「もう逃げない」
「バカだな」とキッド。

炎に包まれながらもなんとか帰ってきた飛行機、首の骨を折り息も絶え絶えのキッドは、駆け寄った人々に語ります。
「大した奴だよ。脱出できたのに、顔色一つ変えず操縦を続けた。おごってやってくれ」
皆を追い出し、一人息を引き取るキッド。

皆が酒場に集まっていると、腕に包帯、顔には火傷を負ったマクフィアソンがジュディと共に現れます。

「呼んだか?」とマクフィアソン。
「お前に酒をおごれとキッドが」とジェフ。

元々皆に嫌われている上にキッドまで死なせてしまい立場がないマクフィアソンは、「ありがとう。テーブルに持って来てくれ」

しかし、以前は彼のことを蔑んでいた皆の目つきが違います。
「待て。一緒に飲もう」

そこへ、見張り所から「嵐はやんだ。風も収まってる」との無線が。
腕なんか1本あれば十分だと、部下を連れ飛び立とうとするジェフ。

当然ボニーは残ってくれると思っているジェフ。しかしボニーは去ることをほのめかします。
彼女に残って欲しいジェフ。
「あなたが頼んだらいるわ」とボニー。

しかし、「女には何も頼まない」が信条のジェフ。並の映画ならついに「頼む、残ってくれ」とジェフに言わせてしまうでしょう。
ところが、この映画は最後の最後までジェフにそれを言わせないのがいい。
言葉の代わりにジェフが取った手段がまたかっこよすぎます。

この映画、俳優陣が最高で、なんといってもキッドに扮したトーマス・ミッチェルが渋すぎ…。

過去を背負い危険なフライトにひたすら向かう、リチャード・バーセルメスが漂わせる悲壮感もたまりません。

ケイリー・グラントもこれまで紹介したコメディでのドタバタ演技から一転、空への思いと誇り、むちゃくちゃかっこいい。
ジーン・アーサーやリタ・ヘイワース相手に憎い台詞も決め、なんと涙まで観ることができます。

こんな中に入ってはジーン・アーサーはやや分が悪いですが、酒場でピアノを弾いてみんなに打ち解けるシーンなんかはいいですね~。

実際にアンデスの山中を飛んでいる空中撮影の緊迫感も凄い。

命を賭けても空を愛する男たちと、そんな男に惚れてしまったが最後の女たち。
様々なドラマを抱えた飛行機が、今日もまた滑走路から飛び立っていく…。

自らもかつて飛行機乗りだった巨匠ハワード・ホークス監督が描く、空に魅せられたプロフェッショナルな男たちの浪漫。

必見。

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[原題]Only Angels Have Wings
1939/アメリカ/121分
[監督]ハワード・ホークス
[出演]ケイリー・グラント/ジーン・アーサー/リチャード・バーセルメス/トーマス・ミッチェル/リタ・ヘイワース

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