預けられた鍵の数だけ、預けた人の思いと、取りに来るかもしれない人の思いがある。
ウォン・カーウァイ第5弾、最新作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』観て来ました。
観に行く前の不安は3つ。
言葉が英語なこと。
舞台がアメリカなこと。
撮影がクリストファー・ドイルではないこと。
特に3つ目は大きく、ウォン・カーウァイ、クリストファー・ドイル、ウィリアム・チャン、この3人のうち誰一人欠けても、あの世界は成り立たないと思っていました。
それがどうでしょう。
何一つ問題なし。
どこからどう観ても、This is ウォン・カーウァイ。
好きだ、たまらなく好きだ、どうしようもないくらい好きだ。
ただ電車が走っただけで一気にウォン・カーウァイワールドに引きずり込まれ(笑)、後はもうただこの愛すべき世界に浸るのみ。
何十回と観ている『恋する惑星』、あの映画の出会いの場はハンバーガーショップ、今回はカフェ。
「California Dreamin’」の代わりに、今回の恋のキューピットはブルーベリーパイ。
あの映画の金城武も、今回のジュード・ロウも、あてのない電話を掛け続けるのはいつも男だ(笑)
出会った二人の距離が0.1ミリだったあの時と違って、二人の間にはもう少し距離がある。
いくらブルーベリーパイが美味しかろうが、女は別の男が鍵を取りに来るのを期待し、男も別の女の鍵を捨てられないでいる。
このままではだめだ。
女が前に進むため旅に出た時、男のもとにも前に進むべく懐かしい訪問者が現れる。
鍵を捨てたら扉は永遠に閉じたままだけど、鍵はあっても中に入れないこともある。
これでようやく鍵を捨てられる。
そして、そんな男のもとに、回り道をした女は戻ってくる…。
そんな二人の周りに寄り添う音楽。
サントラの素晴らしさでタランティーノと双璧を成すウォン・カーウァイ、今回も相変わらずの抜群のセンス。
オープニングとエンディングに流れるノラ・ジョーンズの「The Story」もいいですが、それ以上に素晴らしいのが、ニューヨーク篇で度々流れる、キャット・パワーの「The Greatest」。
キャット・パワーことショーン・マーシャルは、ジェレミーの元恋人という、出番は少ないながらも印象的な役で出演もしています。
メンフィス篇の一方通行の想いの切なさのバックには、オーティス・レディングの「Try A Little Tenderness」。はまりすぎ。
エリザベスからの手紙が届いた夜には、カサンドラ・ウィルソンによるニール・ヤングの激渋カヴァー「Harvest Moon」。
“I’m still in love with you
I wanna see you dance tonight”
そして、ビデオに恐らく恋人との楽しい一時を見つけ泣き崩れるエリザベスを、無言で慰めるジェレミー。
ここで流れたのがなんと、ウォン・カーウァイファンならどこかで聞いたことのあるあのメロディ。
出ました、『夢二のテーマ』。これは反則。
パンフによると、レイチェル・ワイズの役名がスー・リンなのは偶然みたいですが、ナタリー・ポートマンの役名がレスリーなのはもちろん確信犯でしょう。これも反則。
『2046』は正直微妙だったところに、『愛の神、エロス~エロスの純愛・若き仕立屋の恋~』で復活の兆しが見えたウォン・カーウァイ。
彼の作品の中でも『恋する惑星』が一番好きだという人間には、ど真ん中ストライクな映画ではないでしょうか。
台詞やナレーションのかっこよさでは『恋する惑星』より数段落ちるものの、映画の中に流れる空気は10年以上経っても少しも変わってません。
今年のベストワンは確定でしょう。
ブログタイトル通り、これぞ愛すべき映画。
[原題]My Blueberry Nights
2007/香港・中国・フランス/95分
[監督・製作・原案・脚本]ウォン・カーウァイ
[撮影]ダリウス・コンジ
[プロダクションデザイン・衣装デザイン・編集]ウィリアム・チャン
[音楽]ライ・クーダー
[出演]ノラ・ジョーンズ/ジュード・ロウ/デヴィッド・ストラザーン/レイチェル・ワイズ/ナタリー・ポートマン/ショーン・マーシャル
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