『ハドソン河のモスコー』(ポール・マザースキー)

ハドソン河のモスコー

モスクワ国立サーカス団のサックス奏者ウラジミール・イワノフ。

トイレットペイパーをもらうために長蛇の列に並び、国に反抗的な祖父や自由を求める親友にはKGBの監視の目が。
親友の部屋を借り彼女と愛し合った自分自身にも監視の目は行き届いていた。

でも、自由を求める親友とは違い、今の生活に満足とはいかなくとも、変化は求めなかったウラジミール。

ハドソン河のモスコー

そこへ訪れたサーカス団ニューヨーク特別公演の話。
親友はこの機会に亡命するとウラジミールに打ち明け、それを止めるウラジミール。

サーカスの公演中に逃げようとするも監視の目が厳しく叶わない親友。
後はデパートで30分買い物をして、飛行機に乗ってロシアへ帰るだけ。

デパートでも逃げようとするもののまたもや叶わない親友。
そしてみんながバスへ乗り込もうとしたその時、ウラジミールの中で何かがはじけた!

亡命したい。

隠れたのは先ほど少し会話を交わした香水売場の女性のスカートの中(笑)
すぐにKGBに見つかりますが、抵抗したのは売場の黒人警備員。俺の売場で好きなことはさせない!

駆けつける警察、FBI、マスコミ。

誰よりも自由を求めた親友は空港行きのバスの中、そんな親友を止めた自分が亡命の身に。
過ぎ去るバス、交差する二人の視線。
この時点でもうたまりません。

なんとかKGBの手を逃れたウラジミール。
先ほどの黒人警備員の家にお世話になり、スカートの中に入ってしまったイタリア人女性とはいい仲に。
キューバ人の弁護士はいろいろと手続きの面倒を見てくれることに。

いろいろと苦労はありながらも、徐々に自由に、そしてアメリカに慣れていくウラジミール。

ハドソン河のモスコー

しかし、良いことばかりではありません。

念願の市民権を手に入れたイタリア人女性とはお互いに想い合いながらも別れ、誰よりもお世話になった警備員は昇給を見送られアラバマに帰っていく…。

ハドソン河のモスコー

自らもアパートに帰ったところを銃を持った少年二人組に襲われ、お金や身分証から免許証まで奪われてしまう…。

また申請すればいいと慰めるキューバ人弁護士と一緒に入った店で、レニングラード出身の男と口論になるウラジミール。

これが自由なのか?街を安全に歩くこともできない、これが自由なのか?
これが命を賭けて求めた自由なのか?

そんな折、店の外では花火の音が。
今日は独立記念日。

独立宣言なら全部言えると出だしを言い始める弁護士。
そういえば、あの女性も独立宣言を勉強していたなぁ。
続きを忘れた弁護士、続けるウラジミール、レニングラード出身の男、店内に居合わせたアジア系の客、そして…。

白人も黒人も、ロシア人もイタリア人も、アジアの人もキューバ人も、誰もが言える独立宣言。
皆の顔に笑顔が浮かびます。

生まれも育ちも、言葉も肌の色も、全てを受け入れる“アメリカ”。
それはただの幻想でしかないのか。

ウラジミールがふと立ち寄ったホットドックの屋台、売っていたのはなんと自分を追い回したKGBの男。
亡命を許したこの男もモスクワに戻ればシベリア送り。男も“退廃”だと蔑んだこの国に残る決意をしたのでしょう。
このホットドックはニューヨーク一、そう笑顔でウラジミールに語る元KGB。

そしてウラジミールがアパートに帰ると…。

戻ってオープニング。
バスの隣の席の男に「このバス、リンカーン・センターへ行きますか?」と聞かれ、新聞片手にいかにも慣れた口調で「このバスは行かないが心配ない。57丁目まで行って、30番のバスに乗ればいい」と教えるウラジミール。

誰一人知り合いのいない国にたった一人で亡命を求めたロシア人が、ここまでに至った月日。
オープニングを思い出し、こみ上げるものがあります。

この映画は1984年の作品。もちろん今や冷戦は崩壊し、状況は違います。
ただ、アメリカに生きる少数民族に向けた、ポール・マザースキーの温かい眼差し。

ロビン・ウィリアムズの名演技を堪能できるだけでなく、今のこの時代にこそ、世界中の一人でも多くの人とこの作品を分かち合いたい、そう願ってやまない名作。

 

ハドソン河のモスコー [DVD]

[原題]Moscow on the Hudson
1984/アメリカ/115分
[監督]ポール・マザースキー
[出演]ロビン・ウィリアムズ/マリア・コンチータ・アロンゾ/クリーヴァント・デリックス

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