『ライフ・イズ・ミラクル』(エミール・クストリッツァ)

ライフ・イズ・ミラクル

『SUPER 8』以来3年ぶりの、待ちに待ったクストリッツァの最新作。

舞台は1992年、内戦勃発直後のボスニア・ヘルツェゴビナ。

暗くしようと思えばどこまでも暗くできる話ですが、そこはもちろんクストリッツァ、ノー・スモーキング・オーケストラの音楽をバックに、今回も突っ走ります!

当ブログでもUPしている大傑作『アンダーグラウンド』でもそうでしたが、過酷で悲惨な現実を、独特の音楽と圧倒的なエネルギーで笑い飛ばす、それがクストリッツァの映画。

国同士、民族同士で戦争が起こっていようとも、クストリッツァが目を向けるのは、それでも日々を逞しく生きている庶民の姿。

家が吹き飛びそうな爆撃の音が響こうが、美味しいものを食べ、サッカーに夢中になり、オペラを歌い、そして恋をする。

サッカー好きには、試合のシーンのスタジアムの雰囲気はたまりません。熱狂的を通り越して狂信的。
あんな雰囲気の中で試合をしていたであろうストイコビッチが、グランパスでしょっちゅうレッドカードをもらっていたのもわかる気がします(笑)

ライフ・イズ・ミラクル サッカー

そして、音楽や圧倒的なエネルギーと共に、クストリッツァの魅力の一つが、想像力。

今回も恋人がベッドごと空を飛ぶシーンがありますが、うまく言えませんが、SFやファンタジーとは違って、まったく有り得ないという感じではないんです。

ライフ・イズ・ミラクル クストリッツァ

例えば、今回大活躍の動物たち。
風呂に入るクマ、人が食べているパンに食いつく猫、涙を流すロバ。

人が食べている最中のパンでも食べたければ食べる、失恋すれば涙も流す。そこには人も動物もありません。

ライフ・イズ・ミラクル ロバ

悲惨な戦争のさなか、それでも“生きる”ということ。

主人公の友人の軍人は言います。
「これは俺たちの戦争じゃない」
どこかの誰かに聞かせてあげたい名台詞。

どれだけの血を流そうと、地球上から絶えることはないであろう戦争。
しかし、お偉いさんたちが始めた戦争で犠牲になるのは、いつも名もなき人々。

そのつらい現実をそのまま描く映画はたくさんあります。
でも、そんなことは今さら映画で言われなくても、NHKの「映像の世紀」などの方がよっぽどよくできています。

クストリッツァの映画に出てくる人たちは違います。
置かれている状況は悲惨でも、陽気で、ハチャメチャで、どこまでも明るい。
そして、まわりにはいつも音楽があります。
そんな人たちが愛おしくてたまらない。

ライフ・イズ・ミラクル

“ライフ・イズ・ビューティフル”と言ったのはロベルト・ベニーニでしたが、クストリッツァは“ライフ・イズ・ミラクル”。

光射すトンネルの出口、ロバにまたがった恋人、出口の向こうにクストリッツァが見た世界、そのイメージを世界中の人々が共有できることを祈りつつ…。

さすがに『アンダーグラウンド』にはかなわないものの、今回もクストリッツァ節は健在。

「私は人生というものの奇跡を信じている」
~エミール・クストリッツァ~

 

ライフ・イズ・ミラクル [Blu-ray]ライフ・イズ・ミラクル [Blu-ray]

Listen on Apple Music

[原題]Zivot je cudo
2004/セルビア=モンテネグロ・フランス・イタリア/154分
[監督]エミール・クストリッツァ
[出演]スラヴコ・スティマチ/ナターシャ・ソラック/ヴク・コスティッチ

→予告編 →他の映画の感想も読む

関連記事

1995年度のカンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作。 カンヌ受賞作はほんとに錚々たる作品が並び、大好きな作品も多いですが、その中でも特に大好きな1本です。 第二次大戦中のベオグラード、武器商人のマルコは、地下室に避難民たち[…]

関連記事

映画とサッカーを愛する者にとって、これ以上はない最強の組み合わせ、マラドーナ×クストリッツァ。 以前三度もエントリーをUPしながら、結局映画館には行けませんでしたが、ようやく観れました。 マラドーナが主役ということで、サッカーがメイ[…]