『マラドーナ』(エミール・クストリッツァ)

マラドーナ クストリッツァ
映画とサッカーを愛する者にとって、これ以上はない最強の組み合わせ、マラドーナ×クストリッツァ。
以前三度もエントリーをUPしながら、結局映画館には行けませんでしたが、ようやく観れました。

マラドーナが主役ということで、サッカーがメインかと観る前は思っていましたが、現役引退後代表監督就任前の期間の彼が対象と言うことで、サッカーの“神の子”ではなく、コカインに溺れ、妻を娘を愛しながらもそれを自ら台無しにしてきた、一人の情けない男の話です。
そして、あるシーンに号泣。

とはいえ、随所に挿入される現役時代のスーパーゴールの数々はまさに神の子のなせる技で、文字通り一人で試合を決めています。
以前どこかで読んだ、ナポリ時代のチームメイトの「俺にボールを回してくれさえすればゴールを決めるからって。一見嫌味な言い方だけど、でもほんとに決めちゃうから腹も立たないんだよね(笑)」みたいな言葉がありましたが、南部の弱小チームで、ユベントスやミラン相手に一人でセリエAまで制したマラドーナ、偉大なサッカー選手はたくさんいますが、やはり次元が違います。
久々にナポリを訪れた時の映像も出てきますが、英雄の帰還に地元の熱狂ぶりは凄まじいものがありました。

また、極めて政治的な映画でもあります。インタビューも、サッカーのことよりも、政治のことを話している時間の方が長いような。
伝説の5人抜きゴールの映像に合わせてブッシュやブレアやエリザベス女王をこき下ろし、カストロやチャベス大統領も登場し、ハイライトはマル・デル・プラタでのあの反FTAAの集会。

あと、クストリッツァ映画といえば毎回音楽も最高ですが、“ノー・スモーキング・オーケストラ”のLIVEにマラドーナが登場するシーンもありました。
ですが、今回はやはりManu Chaoでしょう。本人を前に、むちゃくちゃ嬉しそうに歌っています。

政治的な映画と書きましたが、笑えるシーンも結構あって、その多くを占めるのが“マラドーナ教”のシーンの数々。
入信の儀式が一番笑えて、“神の手ゴール”を再現しそれを素晴らしいゴールと認めるともう信者の仲間入りです。
教会や聖書もちゃんとあって、マラドーナ教独自の結婚式まであります。アルゼンチンはカトリックが多くを占める国ですが、実はマラドーナ教の信者の方が多いかも(笑)

さて、冒頭に書きました号泣シーンですが、これがなんと、マラドーナの歌。
歌詞も泣けるので、ぜひDVDで日本語字幕をご覧になっていただきたいですが、彼がいかに家族を愛し、家族に愛され、周りの人たちに愛されているか。
偉大なサッカー選手としてではなく、“人間”マラドーナを捉えた極上のシーン。

大切な仲間に囲まれ、両肩に娘さんを抱き、下手な歌を歌うマラドーナ。そんな彼を見つめる奥さん。
マラドーナ、ワールドカップの優勝トロフィーを掲げた時よりも素敵な笑顔をしています。
言葉なんかわかんなくても、映像だけで何度見ても涙なしでは見れません。これを生で観れたクストリッツァが心の底から羨ましい。

最後に、予告編にもちらっと出ていたクストリッツァのサッカーテクニックですが、なかなかのもので、マラドーナとリフティングしている彼は、映画監督でもなんでもなく、ただの一人のマラドーナファンで、ほんとに幸せそうでした。

去年ワールドカップが開催され、ある意味どの選手よりも目立っていたマラドーナ。
そんなマラドーナを“一人の人間”として捉えた最高のドキュメンタリー。
映画とサッカーを愛する全ての方にお勧めです。

 

マラドーナ [DVD]

[原題]Maradona by Kusturica
2008/スペイン・フランス/95分
[監督]エミール・クストリッツァ
[出演]ディエゴ・マラドーナ/エミール・クストリッツァ

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