『こわれゆく女』(ジョン・カサヴェテス)

こわれゆく女

ジョン・カサヴェテス第3弾。

今まで観た3本の中では一番衝撃を受けました。
ただただ圧倒されっぱなしだったんですが、感想を書くのが難しい…。

こわれゆくジーナ・ローランズ、その周りで彼女に関わる多くの人々、夫、子供、親、友人、夫の仕事仲間。

ジーナ・ローランズの演技がとにかく凄まじすぎて、彼女自身の演技力に、それを引き出したカサヴェテスに、ただただ脱帽。

こわれゆく女 ジーナ・ローランズ

夫に扮したピーター・フォークも負けずに素晴らしい!
どこで出てくるかは観てのお楽しみですが、ジーナ・ローランズが子供に順番におやすみを言う時、子供の一人が父親に目配せしたのに対し無言で頷いた時の表情、頷き方、雰囲気、絶品。

それでもこの映画の白眉は、有名なスパゲッティーの食事シーンでしょう。
凄いと噂には聞いてましたが、想像を遙かに越えてました。

このシーンに流れる張りつめた空気は尋常じゃありません。
当ブログでも紹介しているマイク・リーの『秘密と嘘』で、ラスト近く徐々にそれぞれの秘密が明らかになっていくシーンの緊迫感も圧倒的ですが、その遙か上をいきます。

画面を通してさえこれですから、おそらく、現場に居合わせたスタッフたちには、息をするのも苦しいような空気が現場には流れていたのではないでしょうか。

それにしても、感動したわけでも悲しいわけでもないのに、何度も涙がこぼれました。
感情と感情がストレートにぶつかり合うと、こうも激しく、こうも痛く、こうも迫ってくるものでしょうか。

前にどこかで書いた気もしますが、観ているこっちが気を張りつめていないと、少しでも気を緩めると、涙がこぼれ落ちそうな感覚、うまく説明になってないと思いますが、そんな感じです。

時に耐えられず怒鳴り散らし、時には手を上げることがあっても、誰よりも彼女を愛し、誰よりも真っ直ぐに彼女を受け止めようとする夫。

こわれゆく女 ピーター・フォーク

訳のわからない不安に怯えることはあっても、何度引き離されようとも“世界一のママ”だとしがみつく子供たち。

帰ってくれと親たちを追い出したように、メイビルにとってはこの夫と子供たちとの世界が全てであり、それさえあれば彼女はやっていけるのです。
いつまでも鳴り続ける電話でそれを表現したカサヴェテスも見事。

カーテン越しに映る二人の姿、そこに流れる空気のなんと優しくなんと温かいこと!

自分自身はまだ未体験の領域ですが、全てを受け入れ、共に歩んでくれる人がいることの幸せ。
このとてつもなく厳しい物語も、一方ではどこまでも優しく、羨ましくさえあります。

5人のこれからはもちろん平坦ではないでしょう。
それでも、とことんまでぶつかり合って、時にはまた後退させられることがあっても、一歩でも、半歩でも、彼らの道は前へとつながっていることでしょう。

どこにでも起こりうる厳しい現実の中に魅せた、厳しくも優しい、夫婦の、そして家族の物語。

~劇場鑑賞時の感想~
何回観てもボロ泣き。

序盤にニックがメイベルに電話するところからすでに涙腺が緩みだし、例のスパゲッティの場面の尋常でない画面の力にぐったりと疲れ果てた後、ニックの彼女を見つめる眼差し一つ一つに涙が止まらない。

何度も階段を駆け降り母親にしがみつく子供たちに涙腺決壊。

 

こわれゆく女 [Blu-ray]

[原題]A Woman Under the Influence
1974/アメリカ/145分
[監督]ジョン・カサヴェテス
[出演]ジーナ・ローランズ/ピーター・フォーク/マシュー・カッセル

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