『この愛のために撃て』(フレッド・カヴァイエ)

この愛のために撃て

この前また話題に出たので、久しぶりに観ました。
Twitterの方ではちょくちょく話題にしていますが、そういえばちゃんと感想書いていませんでしたね。

というわけで今回は、フレッド・カヴァイエ監督の『この愛のために撃て』です。

この映画がわずか84分って、改めて観てみるとやっぱり凄いですね。
しかも、緊迫感が全編を通して途切れることがなく、最後まであっという間。

警察のチーム同士の対立や、殺し屋を狙う謎の男たち、なんていうごちゃごちゃした状況もあることはあります。

それでも、誘拐された妻を取り戻す、結局はその一点に集約されるところが一番のポイント。

主人公の設定が“看護助手”というのも、傷の手当ができることに違和感がないなど、途中役に立つこともありますが、妻への愛が唯一にして最大の武器、そこがいい。

オープニング直後、妊娠中の妻をいたわる主人公の様子が、結構丁寧に描かれます。
料理も片づけも全部自分がやるから、きみはお姫様みたいに寝室でテレビを観ていてくれればいい。
迫ってくる妻にも、とんでもない!と断り、優しくキスする主人公。
この妻を演じているのが、『私が、生きる肌』のエレナ・アナヤ!

この愛のために撃て エレナ・アナヤ

そんな妊娠中の妻が誘拐された。
殺し屋を誘拐して一緒に逃げることになった?そのために警察にも追われる羽目になった?そんなこと言っている場合じゃない、やるしかない、他に選択肢はない。

とはいっても、ただの看護助手、急にスーパーマンになるわけではありません

中盤にやってくる、5分以上はある、アパートから地下鉄構内にかけての警察との追いかけっこ。
ここがこの映画の白眉。

この愛のために撃て ジル・ルルーシュ

何も知恵を絞って逃げ切るわけではありません、明らかに体力で勝る刑事2人相手に、走る、ただひたすら走る。
妊娠中の妻が誘拐されて命の危険にさらされている、捕まるわけにはいかない、捕まっている場合じゃない、思いの強さが違う。

そして、出ました、フランスのこの手の映画の十八番、凶悪犯よりも顔もいかつければやってることもエグい刑事たち。
なんといっても、刑事チームのボスが、『そして友よ、静かに死ね』のモモンことジェラール・ランヴァンですからね、ただの刑事なわけがない(笑)

この愛のために撃て ジェラール・ランヴァン

そんな刑事たち相手に、署内の大混乱に乗じて、刑事と容疑者のフリをして正面から警察署に乗り込んでいく主人公と殺し屋。

殺し屋と一緒にいるわけですから、当然主人公は自分が刑事役だと思っていますが、甘い(笑)
ここで飛び出すのが、素晴らしすぎるこのやりとり。

「僕が刑事に」「だめだ、顔が善人すぎる」

この愛のために撃て ロシュディ・ゼム

右が刑事役で左が容疑者役です(笑)

この組み合わせでないと説得力がなくなってしまう、これぞフランス映画(笑)
ハリウッド映画なら間違いなく逆でしょう。

乗り込んでからの展開は観てのお楽しみとしておきますが、事件が一件落着してからも、その後もさらに素晴らしいのがこの映画。

またもや丁寧に描かれる夫婦の描写。
それとは別のところで、つけられることになる一つの落とし前。
それもまた観てのお楽しみ。

この後も似たようなフランス映画が何本もありますが、やはりこの映画が頭1つ抜けているでしょう。

必見。

(2013.4.7)

~2014.11.3 劇場再鑑賞時のツイート~
映画館で観るのは公開時以来ですが、繰り返し観ている映画の一つ。“『あるいは裏切りという名の犬』以降”のフレンチノワールの最高傑作の地位は今でも揺るがない。感想は以前ブログの方にちゃんと書きました→ https://aisubekieigatachi.com/konoai-ute/

これはしつこいくらいに書いていますが、世の中の映画監督はほんとにフレッド・カヴァイエ監督の爪の垢を煎じて飲むべき。『マルセイユ・コネクション』の135分なんか完全に長すぎたけど、この手の映画は2時間でも長すぎる。やっぱりどんなに長くても100分までだよこの手の映画は。

 

この愛のために撃て [DVD]

[原題]À bout portant
2010/フランス/84分
[監督]フレッド・カヴァイエ
[脚本]フレッド・カヴァイエ/ギョーム・ルマン
[音楽]クラウス・バデルト
[出演]ジル・ルルーシュ/エレナ・アナヤ/ロシュディ・ゼム/ジェラール・ランヴァン/ミレーユ・ペリエ/クレール・ペロ

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